赤い姫と黒い皇子3
(2017-02-23 20:02:07)
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红公主与黑王子
小川未明
お姫さまは、だれも気のつかないうちに、あちらの島へ身を隠すことになさいました。ある日のこと三人の侍女とともに、たくさんの金銀を船に積まれました。そして、赤い着物をきたお姫さまは、その船におすわりになりました。
红公主趁着还没人发觉,赶紧动身前往岛上隐藏起来。那天,她带了3名婢女和满船的金银财宝。就这样,一身红衣的公主上船了。
青い海を、静かに、船は港から離れて、沖の方へとこぎ出たのです。空は澄んでいました。そして、遠く、かなたには、島の影がほんのりと浮かんでいたのであります。
蓝蓝的海上,船悄无声息地离开了港口,驶向远处的小岛。天空一片澄澈。渐渐地,远处隐约浮现出小岛的影子。
船には、たくさんの金銀が積み込んでありましたから、その重みでか、船は沖へ出てしまって、もう、陸の方がかすんで見られなくなった時分から、だんだんと沈みかけたのでした。どんなに、三人の侍女とお姫さまは驚かれたでありましょう。
因为船上装满了金银,或许是超负荷的缘故,就在云雾将大陆完全笼罩,模糊不清时,船开始一点点地往下沉。红公主和三名婢女惊恐万分。
「やはり、皇子が、わたしをやらないように引っ張っているのです。」
と、お姫さまは歎かれました。
“果然,冥冥之中,王子殿下在拉着我,不让我走。”公主哀叹道。
「いいえ、お姫さま。これは、あまり金や銀をたくさん船に積み込んであるからであります。金や銀の重みを去れば、船は、軽くなって浮き上がるでありましょう。」と、侍女らはいいました。
“不是的,公主殿下。这是因为船上的金银太重了。只要扔掉一些金银,船会慢慢变轻,往上浮的。”婢女们说。
「そんなら、みんな金や、銀を海の中に投り込んでおしまいなさい。」
と、お姫さまは、侍女たちに命ぜられました。
“那,你们还不赶紧把金银统统扔到海里去!”红公主命令婢女们。
侍女たちは、金や、銀を手に取って、一つずつ海の中に投げ込みました。陸の方では、これを知っているわずかの人だけが、お姫さまの船を見送っていたのですが、このとき、海の上が光って、水の中に沈んでいくまばゆい光を、その人々はながめました。そして、お姫さまの赤い着物に、日が映って、海の上を染めるよう見えたのです。
婢女们拿起金银,一个一个往海里扔。大陆那边,只有少许知道此事的人目送着红公主的船。这时,人们远远地看到海面上泛着刺眼的金光往海里沉去。而且,红公主的一身红衣在太阳的映衬下,将海面染得通红。
しかし、不思議なことには、船はだんだんと水の中に深く沈んでいきました。侍女たちが手に手を取って投げる金銀の輝きと、お姫さまの赤い着物とが、さながら雲の舞うような、夕日に映る光景は、やはり陸の人々の目に見られたのです。
然而,不可思议的是,船越陷越深。婢女们不停扔出去的金光和红公主的一身红衣仿佛云彩飞舞般。这在夕阳映衬下的光景,还是让陆地上的人们看见了。
「お姫さまの船が、海の中に沈んでしまったのだろうか。」と、陸では、みんなが騒ぎはじめました。
“公主殿下的船,难道是沉入大海了吗?”人们开始议论纷纷。
赤い姫君と黒い皇子の結婚の日のことであります。皇子は、待てども待てども、姫君が見えないので、腹をたてて、ひとつには心配をして、幾人かの勇士を従えて、自らシルクハットをかぶり、燕尾服を着て、黒塗りの馬車に乗り、姫から贈られた黒馬にそれを引かせて、お姫さまの御殿のある城下を指して駆けてきたのです。
正值这天是红公主殿下和黑王子大婚的日子。黑王子日盼夜盼,因迟迟看不到红公主殿下,心头大怒,唯恐夜长梦多,便派几名勇士随从,亲自戴上黑色高礼帽,穿上黑色燕尾服,乘坐黑漆马车,并由公主赠送的黑马牵引着,赶往红公主殿下所在宫殿的城门下。
城下の人々は、今度のことから、なにか起こらなければいいがと心配していました。ちょうどそのとき、皇子がやってこられるといううわさを聞きましたので、みんなは家の中に入って、かかり合いにならぬように、戸を堅く閉めてしまいました。
城边的人们希望今后相安无事,对此忧心忡忡。正巧这时听到王子前来的小道消息,大家纷纷回到家中,生怕受到牵连,紧闭家门。
はたして夜になると、家の前をカッポ、カッポと鳴らして通るひづめの音をみんなは聞きました。その後からつづいて、幾つかの乱れたひづめの音が、入り混じって聞こえてきました。みんなは、息を潜めて黙って、その音に耳を傾けたのです。すると、ひづめの音は、だんだんあちらに遠ざかっていきました。
不出所料,入夜时分,大家听到门前“啪踏啪踏”地马儿经过的声音。紧随其后,又夹杂着散乱的马蹄声。大家屏住气息,默默地听着。后来,马蹄声渐渐地远去了。
しばらくすると、こんどは、あちらから、こちらへ、カッポ、カッポと鳴り近づくひづめの音が聞こえました。つづいて入り乱れた幾つもの音を聞いたのでありました。あちらにお姫さまがいないので、彼らはこちらにきて探すもののように思われました。
不久,那啪踏啪踏的马蹄声又从远处逐步逼近。紧接着还夹杂一些混乱的声音。因为红公主不在那边,他们又到这边来搜查了。
「お姫さまは、昨夜、海の中に沈んでしまわれたのだもの。いくら探したって見つかるはずがない。」と、人々は思っていました。
“红公主殿下昨晚就已经沉入海底了啊!再怎么找也是找不到的。”大家心想。
また、ひづめの音が聞こえました。こんどは、またこちらから、あちらへもどっていくのです。
马蹄声又一次传来了。这次是要远去的声音。
「姫は、どこへいったのじゃ。」と、叫ぶ声が、闇の中でしました。
“公主殿下,究竟在哪里啊?”黑暗中一声大吼。
やがて、そのひづめの音が、聞こえなくなると、後には、夜風の空を渡る音がかすかにしました。しかしこうして、ひづめの音は、夜中、家々の前をいくたびも往来したのであります。そして、夜明けごろに、この一隊は、海の方を指して、走っていきました。人々は、その夜は眠らずに、耳を澄まして、このひづめの音を聞いていました。
很快马蹄声就消失了。之后,晚风习习,穿梭夜空。可是,马蹄声一整晚在家家户户前来回徘徊。天明时分,这支队伍朝着大海方向,飞奔而去。大家彻夜未眠,专心地听着马蹄声。
夜が明けたときには、もうこの一隊は、この城下には、どこにも見えませんでした。前夜のうちに、皇子の馬車も、それについてきた騎馬の勇士らも、波の上へ、とっとと駆け込んで、海の中へ入ってしまったものと思われたのであります。
天亮了,黑王子的队伍早已不在城下了。大家都觉得那是因为昨晚,王子的马车,以及随从的骑士们,快马踏浪,向大海进发了。
夕焼けのした晩方に、海の上を、電光がし、ゴロゴロと雷が鳴って、ちょうど馬車の駆けるように、黒雲がいくのが見られます。それを見ると、この町の人々は、
「赤い姫君を慕って、黒い皇子が追っていかれる。」と、いまでも、いっているのでありました。
傍晚,云烧得通红,海上雷电交错,雷声轰轰,乌云如马车驰骋般渐渐密布。“那是痴情的黑王子在追着红公主殿下。”看到这番景象,镇上的人们至今都流传着这样的说法。