《伊豆舞女》(第一章)
(2018-03-30 07:59:41)
标签:
伊豆舞女川瑞康成 |
分类: 川瑞康成和东山魁夷专辑 |
伊豆の踊子 川端康成
第一章
道がつづら折りになって、いよいよ天城峠に近づいたと思うころ、雨足が杉の密林を白く染めながら、すさまじい早さで麓から私を追って来た。
山路变得弯弯曲曲,快到天城岭了,我正这么想着,骤雨已将杉木林染白,从山脚下朝我迅猛追来。
私は二十歳、高等学校の制帽をかぶり、紺飛白の着物に袴をはき、学生カバンを肩にかけていた。一人伊豆の旅に出てから四日目のことだった。修善寺温泉に一夜泊まり、湯ヶ島温泉に二夜泊まり、そして朴歯の高下駄で天城を登って来たのだった。重なり合った山々や原生林や深い渓谷の秋に見とれながらも、私は一つの期待に胸をときめかして道を急いでいるのだった。そのうちに大粒の雨が私を打ち始めた。折れ曲がった急な坂道を駆け登った。ようやく峠の北口の茶屋にたどり着いてほっとすると同時に、私はその入口で立ちすくんでしまった。あまりに期待がみごとに的中したからである。そこに旅芸人の一行が休んでいたのだ。
那年我二十岁,戴着高等学校的制帽,藏青碎白花纹的和服底下穿着裤裙,肩挎学生皮书包,一个人去伊豆旅行,已经是第四天了。在修善寺温泉歇了一宿,在汤岛温泉住了两夜,然后脚踏高齿木屐来登天城山。重叠的山峦,原始的森林,深邃的溪谷,一眼望尽的秋色,可是我心却蹦蹦跳个不停,为期待着什么似的而匆忙地赶路。此时大颗的雨点开始朝我打来。我跑着登上了曲折陡峭的坡道。好不容易挣扎着走到山巅北口的茶店,这才松了一口气,并且在入口处呆呆地站着。正像我期待中的那样,串街演出的艺人一行正在那里休息。
突っ立っている私を見た踊子がすぐに自分の座布団をはずして、裏返しにそばに置いた。
「ええ…。」とだけ言って、私はその上に腰をおろした。坂道を走った息切れと驚きとで、「ありがとう。」という言葉が喉にひっかかって出なかったのだ。
看见我呆立着的舞女立刻离开自己的褥垫,将它翻里作面放在一旁。
“噢......
”我只应了一声,就在这褥垫上坐了下来。由于爬坡后的气喘加上惊慌,就连“谢谢”这样的话也卡在喉咙里说不出来。
踊子とま近に向かい合ったので、私はあわてて袂から煙草を取り出した。踊子がまだ連れの女の前の煙草盆を引き寄せて私に近くしてくれた。やっぱり私は黙っていた。
我面对着舞女坐着,离得很近。我慌慌张张地从袖兜里取出香烟,舞女又把随行女子面前的香烟缸拉到我的近旁。我仍然没有说话。
踊子は十七くらいに見えた。私にはわからない古風の不思議な形に大きく髪を結っていた。それが卵型のりりしい顔を非常に小さく見せながらも、美しく調和していた。髪を豊かに誇張して描いた、稗史的な娘の絵姿のような感じだった。踊子の連れは四十代の女が一人、若い女が二人、ほかに長岡温泉の印半纏を着た二十五六の男がいた。
舞女看上去十七岁左右,梳扎着一个我从没见过的、带着古典风味而奇怪的大发髻。它使舞女那椭圆形、凛凛风姿的脸蛋显得小巧玲珑,美丽和谐。我觉得她就像稗官野史中女人的画像那样,经夸张的描绘,头发特别丰满而浓厚。与舞女一起的,有一个四十岁的女子,两个年轻女孩,还有一个穿着长冈温泉旅馆号衣的二十五六岁的男子。
私はそれまでにこの踊子を二度見ているのだった。最初は私が湯ヶ島へ来る途中、修善寺へ行く彼女たちと湯川橋の近くで出会った。その時は若い女が三人だったが、踊子は太鼓をさげていた。私は振り返り振り返り眺めて、旅情が自分の身についたと思った。それから、湯ヶ島の二日目の夜、宿屋へ流しが来た。踊子が玄関の板敷で踊るのを、私は梯子段の中途に腰をおろして一心に見ていた。--あの日が修善寺で今夜が湯ヶ島なら、明日は天城を南に越えて湯ヶ野温泉へ行くのだろう。天城七里の山道できっと追いつけるだろう。そう空想して道を急いで来たのだったが、雨宿りの茶屋でぴったり落ち合ったものだから私はどぎまぎしてしまったのだ。
至今我已经是第二次见到那位舞女了,最初是在来汤岛的途中,她们正去修善寺,在汤川桥附近遇到的。当时她们有三位年轻姑娘,舞女提着大鼓。我不时回头望着她们,一缕旅愁不由得浸入我的心中。后来是在汤岛的第二天晚上,她们到我寄宿的旅馆来串街演出。舞女在门厅的地板上作舞,我坐在楼梯中央专心地观看。——那天她们白天在修善寺,晚上来到汤岛,明天也许要越过天城岭之南去汤野温泉了吧。在天城山二十多公里的山道上,我一定能追上她们吧?我就是这样一路胡思乱想着,急匆匆地赶来的。
まもなく、茶屋の婆さんが私の別の部屋へ案内してくれた。平常使わないらしく戸障子がなかった。下をのぞくと美しい谷が目の届かないほど深かった。私は膚に粟粒をこしらえ、かちかちと歯を鳴らして身震いした。茶を入れに来た婆さんに、寒いというと、「おや、だんな様おぬれになってるじゃございませんか。こちらでしばらくおあたりなさいまし、さあ、おめしものをおかわかしなさいまし。」と、手を取るようにして、自分たちの居間へ誘ってくれた。
不一会儿,茶馆的老婆婆将我领到另一个房间。由于平时不常使用,这房间没安装门窗。我朝下张望,只见满目是幽静的山谷,深不可测。我的皮肤起了鸡皮疙瘩,牙齿上下打颤,身体发抖。我对端茶进来的老婆婆说:“太冷了!““哎呀,少爷浑身都湿透了。请到这边来,来啊,请把衣服烤烤吧。”她说着,便拉着我的手,将我引进自己的起居室。
その部屋は炉が切ってあって、障子をあけると強い火気が流れて来た。私は敷居ぎわに立って躊躇した。水死人のように全身青ぶくれの爺さんが炉端にあぐらをかいているのだ。瞳まで黄色く腐ったような目を物うげに私の方へ向けた。身の回りに古手紙や紙袋の山を築いて、その紙くずのなかに埋もれていると言ってもよかった。とうてい生物と思えない山の怪奇を眺めたまま、私は棒立ちになった。
这个房间砌有地炉,打开拉门,一股强烈的热气飘了过来。我站在门槛那儿犹豫着,只见一位老大爷在炉前盘腿坐着,浑身发青淤肿,就像个溺死者。他的瞳孔发黄,眼睛像是被腐蚀了似的,无神地朝我的方向瞥来。说他身边旧书信和纸袋堆积成山,还不如说他被埋在这些故纸堆里为好。我呆呆地站立在那里,怎么也想象不出,这个山中怪物,竟然还是个活物。
「こんなお恥ずかしい姿をお見せいたしまして…。でも、うちのじじいでございますからご心配なさいますな。お見苦しくても、動けないのでございますから、このままで堪忍してやって下さいまし。」
“让你看见这副不成体统的样子......
不过,他是我老伴,请不要担心。他虽然看起来寒碜,却已经不能动弹了,请将就着忍耐一点吧。”
そう断ってから、婆さんが話したところによると爺さんは長年中風を煩って、全身が不随になってしまっているのだそうだ。紙の山は、諸国から中風の療法を教えて来た手紙や、諸国から取り寄せた中風の薬の袋なのである。爺さんは峠を越える旅人から聞いたり、新聞の広告を見たりすると、その一つをも漏らさずに、全国から中風の療法を聞き、売薬を求めたのだそうだ。そして、それらの手紙や紙袋を一つも捨てずに身の回りに置いて眺めながら暮らして来たのだそうだ。長年の間にそれが古ぼけた反古の山を築いたのだそうだ。
由于话被打断了,老婆婆就说起了老大爷的故事。他似乎是患上了中风,长年不愈,半身不遂。那些堆成山的纸,是各地关于中风求医的来信,以及各地邮寄来的中风药的纸袋。有从越过山顶的旅人那里打听来的,有从新闻广告上读到的,就这样一封也不漏,从全国打听到关于中风的疗法,再求人抓药。而且,他将这些信和纸袋一封也不舍得扔掉,全都堆放着身边,靠凝视着它们打发日子。长年之间,这些破旧的废纸便堆积如山了。”
私は婆さんに答える言葉もなく、囲炉裏の上にうつむいていた。山を越える自動車が家を揺すぶった。秋でもこんなに寒い、そしてまもなく雪に染まる峠を、なぜこの爺さんはおりないのだろうと考えていた。私の着物から湯気が立って、頭が痛むほど火が強かった。
对于老婆婆的话,我无言以对,在围炉边耷拉下了脑袋。穿越山顶的汽车使房屋摇晃起来。秋天就这样寒冷,然后不久大雪将染白山顶,我左思右想,为什么老爷爷不下山呢?水蒸气从我的衣服上升起,火越旺我的脑袋就越疼。
婆さんは店に出て旅芸人の女と話していた。
「そうかねえ。この前連れていた子がもうこんなになつたのかい。いい娘(あんこ)になって、お前さんも結構だよ。こんなにきれいになったのかねえ。女の子は早いもんだよ。」
老婆婆从店里出来,与串街演出的女艺人攀谈起来。
“啊呀,先前带来的女孩这么大了吗?长成了漂亮的大姑娘,你也不错嘛,越来越漂亮了。女孩子长得真快呀!”
小一時間経つと、旅芸人たちが出立つらしい物音が聞こえて来た。私も落ち着いている場合ではないのだが、胸騒ぎするばかりで立ち上がる勇気が出なかった。旅慣れたと言っても女の足だから、十町や二十町遅れたって一走りに追いつけると思いながら、炉のそばでいらいらしていた。しかし踊子たちがそばにいなくなると、かえって私の空想は解き放たれたように生き生きと踊り始めた。彼らを送り出して来た婆さんに聞いた。
不到一个小时工夫,传来串街演出的艺人们准备出发的声音。我还没有落脚的地方,尽管我的心里乱成一堆乱麻,却没有勇气站起来。我在炉旁心急如焚,我想,虽说她们的脚走惯了旅行,让她们先走十町二十町的,我跑一跑就能追上。可是一旦舞女们不在身边,我的胡思乱想似乎反倒被解放了,开始生气勃勃地跳起舞来。我向送走她们回来的老婆婆打听:
「あの芸人は今夜どこで泊まるんでしょう。」
「あんな者、どこで泊まるやらわかるものでございますか、旦那様。お客があればあり次第、どこにだって泊まるんでございますよ。今夜の宿のあてなんぞございますものか。」
はなはだしい軽べつを含んだ婆さんの言葉が、それならば、踊子を今夜は私の部屋に泊まらせるのだ、と思ったほど私をあおり立てた。
“那些艺人今晚住在哪里呀?”
“那种人,谁知道她们会住在哪里,少爷。哪里有客人就在哪里住呗,哪有今晚的固定住所呀!”
老婆婆的话里含有非常轻蔑的意思,这么一想,我的心里生出一丝邪念,要那样的话,舞女就住在我的客房里好了。
雨足が細くなって、峰が明るんで来た。もう十分も待てばきれいに晴れ上がると、しきりに引き止められたけれども、じっとすわっていられなかった。
雨势变细了,山峰变得明亮起来。再等十分钟,天就会放晴,一定会很漂亮,老婆婆再三挽留我,对我这样说,可是我说什么也坐不住了。
「爺さん、お大事になさいよ。寒くなりますからね。」と私は心から言って立ち上がった。
爺さんは黄色い眼を重そうに動かしてかすかにうなずいた。
“老爷爷,请多保重!天快变冷了。”我真诚地说了这句话,就站了起来。
老爷爷动了动浑浊而发黄的眼睛,微微点了点头。
「旦那さま、旦那さま。」と叫びながら婆さんが追っかけて来た。
「こんなにいただいてはもったいのうございます。申しわけございません。」
“少爷,少爷!”老婆婆边喊边追了上来。
“给了那么多钱,不敢当啊!真是对不起!”
そして私のカバンを抱きかかえて渡そうとせずに、いくら断わってもその辺まで送ると言って承知しなかった。一町ばかりもちょこちょこついて来て、同じことを繰り返していた。
然后紧抱着我的皮书包,不肯给我。尽管我再三婉拒,她也不答应,说一定要把我送到那边。她反复说着同样的话。
「もったいのうごさいます。お粗末いたしました。お顔をよく覚えております。今度お通りの時にお礼をいたします。この次もきっとお立ち寄り下さいまし。お忘れはいたしません。」
“怠慢了,真是对不起啊!我会好好记住你的模样。下次路过这里再谢你。下次你一定要来呀!请不要忘了!”
私は五十銭銀貨を一枚置いただけだったので、痛く驚いて涙がこぼれそうに感じているのだったが、踊子に早く追いつきたいものだから、婆さんのよろよろした足取りが迷惑でもあった。とうとう峠のトンネルまで来てしまった。
我仅留下了一个五十钱的银币,她竟然如此感谢不已,泪流满面,使我痛感惊愕。因为我只想尽早追上舞女,老婆婆在我身后步履踉跄,倒使我感到为难。终于来到了山顶的隧道处。
「どうもありがとう。お爺さんが一人だから帰ってあげて下さい。」と私が言うと、婆さんはやっとのことでカバンを離した。
“真是太感谢了!老爷爷在家,请快回吧!”我这样说了之后,老婆婆才勉强放开了我的皮书包。
暗いトンネルに入ると、冷たい雫がぽたぽた落ちていた。南伊豆への出口が前方に小さく明るんでいた。
前一篇:伊豆の踊子 (转载)
后一篇:伊豆の踊子川端康成