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舞会  芥川龙之介(转载)

(2016-05-14 15:12:18)
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舞会

芥川龙之介

日本散文

分类: 芥川龙之介专辑

 

  一

 

  时当明治十九年①十一月三日晚,芳龄十七的名门小姐明子,和已见谢顶的父亲,一起登上鹿鸣馆的楼梯,参加今晚在这儿举行的舞会。明亮的瓦斯灯下,宽阔的楼梯两侧,是三道菊花园成的花篱,菊花大得像是人造的假花。最里层是淡红,中间深黄;前面雪白,白花瓣像流苏一样错落有致。菊篱的尽头,台阶上面的舞厅里,欢快的管弦乐声,仿佛是无法抑制的幸福的低吟,片刻不停地飘荡过来。

 

  ①即公元一八八六年。

 

  明子很早就学会法语,受过舞蹈训练,但正式参加舞会,今晚还是有生以来头一回。所以在马车里,回答父亲不时提出的问话,总是心不在焉。她心里七上八下,·也可以说,兴奋之中带点儿紧张。直到马车停在鹿鸣馆前,她已焦急地不知有多少次抬眼望向窗外,瞧着东京街头稀疏的灯火一闪而过。

 

  可是,刚进鹿鸣馆,就遇到一件事儿,倒让她忘了不安。楼梯上到一半,赶上一位中国高官。这位高官闪开肥胖的身躯,让他们父女先过,眼睛痴痴地望着明子。明子一身玫瑰色的礼服,显得娇艳欲滴。脖子上系了一条淡蓝色丝带,浓密的秀发里,仅别了一朵玫瑰花,散发出阵阵幽香——不用说,那夜,明子的丰姿,把文明开化后日本少女的美,展示得淋漓尽致,准是让那个拖着长辨子的中国高官看得目瞪口呆。这时,又有一位身着燕尾服,匆匆下楼的年轻日本人擦身而过,他下意识地回过头来,同样愕然地向明子背影投去一瞥。随即若有所思地用手理了一下白领带,从菊花丛中朝大门口匆匆走去。

 

  父女两人走上楼。在二层舞厅门前,蓄着半自络腮胡子的主人伯爵大人,胸前佩着几枚勋章,同一身路易十五时代装束的老伯爵夫人相并伫立,雍容高雅地迎接着宾客。伯爵看到明子时,那张老谋深算的脸上,刹那间掠过一丝毫无邪念的惊叹之色。就连这,也没能逃过明子的眼睛。明子那为人随和的父亲,面带笑容,高兴地用三言两语,把女儿介绍给伯爵夫妇。明子半是娇羞,半是得意,但同时,也觉得权势显赫的伯爵夫人,容貌里仍沾有那么一点粗俗。

 

  舞厅里,也到处是盛开的菊花,美不胜收。而且,无处不是等候邀舞的名媛贵妇,她们身上的花边、佩花和象牙扇,在爽适的香水味里,宛如无声的波浪在翻涌。明子很快离开父亲,走到艳丽的妇人堆里。这一小堆人,都是同龄少女,穿着同样淡蓝色或玫瑰色的礼服。她们欢迎她,像小鸟般喊喊喳喳,交口称赞她今晚是多么迷人。

 

  可是,同她们刚待在一起,便不知从哪儿,静静地走来一个从未见过面的法国海军军官。军官双手低垂,彬彬有礼,作一日本式的鞠躬。明子感到一抹红云悄悄爬上了粉颊。这鞠躬的意思,不用问,她当然明白。于是便回过头,把手中扇子交给站在一旁,穿淡蓝色礼服的少女。出乎意料的是,海军军官脸上浮出一丝笑意,竟用一种带异样口音的日语,清楚地说道:

 

  “能不能赏光跳个舞?”

 

  很快,明子和法国海军军官踩着《蓝色多瑙河》的节拍,跳起了华尔兹。军官的脸色给烈日晒得黧黑,他相貌端正,轮廓分明,胡须很浓重;明子把戴着长手套的手、搭在舞伴军服的左肩上,可是她个子太矮了。早已熟悉这种场面的海军军官,巧妙地带着她,在人群中迈着轻松的舞步。还不时在她耳畔,用惹人喜欢的法语,说些赞美之词。

 

  明子对这些温文尔雅的话语,报以一丝羞涩的微笑,一边不时地把目光投向舞厅的四周。紫色绉绸的帷幔,印着皇室的徽章,大清帝国的国旗,画着张牙舞爪的青龙;在帷幔和旗帜之下,一瓶瓶菊花,在起伏的人海中,时而露出明快的银色,对而透出沉郁的金色。然而,起伏的人海像香槟酒一样欢腾,在华丽的德意志管弦乐曲的诱惑下,一刻不停地回旋,令人眼花缭乱。明子与一个正在曼舞的女友目光相遇,遽忙之中,互送一个愉快的眼风。就在这一瞬间,另一对舞伴,像狂飞的大娥,不知从哪里现身出来。

 

  明子知道,这期间,法国海军军官的眼睛,一直在关注自己的一举一动。这意味着,一个全然不了解日本的外国人,对她陶醉于跳舞感到好奇。这么漂亮的小姐,难道也会像玩偶一样,住在纸糊和竹造的屋里么?难道也要用精细的金属筷子,从只有掌心般大的青花碗里,夹食米粒么?——他眼中含着讨人喜欢的笑意,但又时时闪过这样的疑问。明子觉得又好笑,又得意。每逢对方把好奇的视线投在自己的脚下时,她那双华丽的玫瑰色舞鞋,就在平滑的地板上愈发轻快地滑着、舞着。

 

  但不久,军官感到,这个猫咪似的姑娘已不胜疲乏,便怜惜地凝视着她的面庞问:

 

  “还想继续跳吗?”

 

  “Non,merci①”

 

  ①法语:不,谢谢

 

  明子喘息着,坦率的回答。

 

  于是,法国海军军官一边继续迈着华尔兹舞步,一边带她穿过前后左右旋转着的花边和佩花的人流,从容地靠向沿墙摆着的一瓶瓶菊花。等转完最后一圈,漂亮地把她安顿在一把椅子上,自己挺了挺军服下的胸膛,然后一如先前,恭敬如仪,作一日本式的敬礼。

 

  后来,他们又跳过波尔卡和马祖卡。然后,明子挽着法国海军军官,经过白的、黄的、淡红的三层菊篱,朝楼下的大厅走去。

 

  这里,燕尾服和裸露的粉肩不停地来来去去,摆满银器和玻璃器皿的大台子上,有堆积成山的肉食和松露;有耸立似塔的三明治和冰淇淋;有筑成金字塔似的石榴和无花果。尤其屋子一侧,尚未被菊花埋没的墙上,有一美丽的金架子,架子上面,葱绿的人工葡萄藤攀缠得巧夺天工。明子在金架子前,见到了略见谢顶的父亲,他口衔雪茄,和一班年龄相仿的绅士站在一起。看到明子,父亲满意地略点下头,便转向同伴,又吸起了雪茄烟。

 

  法国海军军官和明子走到一张台子前,同时拿起盛冰淇淋的匙子。明子发觉,即使这工夫,对方的视线仍不时落在她的手上,头发上,以及系着淡蓝丝带的脖子上。当然,对她来说,决不会引起什么不愉快的感觉,不过,有那么一瞬,某种女性的疑惑,仍不免闪过脑际。恰在这时,有两个身着黑丝绒礼服,胸前别着红茶花的德国妙龄女郎经过身旁,她有意透露自己的疑惑,便设辞感叹地说:

 

  “西方的女子,真是美得很呀!”。

 

  不料,海军军官闻言,认真地摇了摇头。

 

  “日本的女子也很美。特别是像小姐您这样……”

 

  “哪儿的话。”

 

  “不,这决不是恭维话。以您现在这身装束,就可出席巴黎的舞会。而且会艳惊四座。您就像瓦托①画上的公主一样。”

 

  ①Antoine Wtitteau(1684—1721),法国画家。

 

  明子并不知道瓦托其人。因此,海军军官的话所唤起的她对美好往昔的幻想——幽幽的林中喷泉,和行将凋谢的玫瑰,转瞬之间,便消失得无影无踪。敏感过人的她,一边搅动着冰淇淋的小匙,一边不忘提起另一个话题:

 

  “我也颇想参加巴黎的舞会呢。”

 

  “其实不必,巴黎的舞会,同这里毫无二致。”

 

  海军军官说着,扫视一下子周围的人流和菊花,忽然眸子里露出一丝讥讽的微笑,停下搅动冰淇淋的匙子。

 

  “岂止巴黎,舞会,哪儿都是一样的。”他半自语地补上一句。

 

  一小时后,明子和法国海军军官依然挽着手臂,和众多日本人、外国人一起,伫立在舞厅外星月朗照的露台上。

 

  与舞台一栏之隔的大庭园里,覆盖着一片针叶林;静谧中,枝叶相交的枝头上,小红灯笼透出点点光亮。冰冷的空气中,和着下面庭园里散发出的青苔和落叶的气息,微微飘溢着一缕凄凉的秋意。可就在他们身后的舞厅里,依旧是那些花边和花海,在印着皇室徽记十六瓣菊花的紫绉绸帷幔下,毫无休止地摇曳摆动着。而高亢的管弦乐,宛如旋风一般,照旧在人海上方,无情地挥舞着鞭子。

 

  当然,露台上也热闹非常,欢声笑语接连划过夜空,尤其当针叶林上的夜空,放出绚丽的烟火,几乎所有的人都同时发出哗然的喧闹声。明子站在人群里,和相识的姑娘们一直在随意地交谈。俄顷,她察觉到,法国海军军官仍旧让她挽住自己的手臂,默默望着星光灿烂的夜空,觉得他似在感受着一缕乡愁。明子仰起头,悄然望着他的面孔:

 

  “是不是想起故乡了?”她半带撒娇地询问道。

 

  仍是那双满含笑意的眼睛,海军军官静静地转向明子,用孩子般的摇头,代替一声“不”。

 

  “可您好像在想什么哪、”

 

  “那您猜猜看,我想什么呢?”

 

  这时,聚在露台上的人群里,又像起风一样,掀起一阵躁动。明子和海军军官心照不宣,停止了交谈,眼睛望向庭园里压在针叶林上的夜空。红的和蓝的烟火,在暗夜中射向四方,转瞬即消弭于无。不知为何,明子觉得那束烟火是那么美,简直美得令人不禁悲从中来。

 

  “我在想烟火的事儿。好比我们人生一样的烟火。”

 

  隔了一会儿,法国海军军官亲切地俯视着明子,用教诲般的口吻说道。

 

  二

 

  大正七年的秋天,当年的明子去镰仓别墅的途中,于火车里偶然遇见一位仅一面之雅的青年小说家。他正往行李架上放一束菊花,是准备送给镰仓友人的。于是,当年的明子——现在的H老夫人,说她每逢看到菊花,就会想起往事,便把鹿鸣馆舞会的盛况,详细讲给了小说家。听老妇人亲口讲她的回忆,青年小说家自然兴致勃勃。

 

  讲完之后,青年不经意地问H老夫人:

 

  “夫人知道这位法国海军军官的名字吗?”

 

  出乎意料,H老夫人回答道:

 

  “当然知道。他叫Julien Viaud。”

 

  “这么说是Loti了。就是写《菊子夫人》的皮埃尔·洛蒂①。”

 

  ①Pierre Loti(1850—1923),法国作家。原名Julien Viaud,一八六七年考入海军学校,毕业后服务于海军,开始四十二年之久的海上生涯。几乎每年都有作品问世,写有《菊子夫人》(1887)等四十余部小说。普西尼的《蝴蝶夫人)(1904),故事就脱胎于《菊子夫人》。

 

  青年既愉快又兴奋。H老夫人却讶然看着青年的脸,喃喃地一再说:

 

  “不,他不叫洛蒂。叫于利安·维奥。”

 

  (一九一九年十二月)

 

 

舞踏会

 

芥川龍之介

 

       一

 

 明治十九年十一月三日の夜であつた。当時十七歳だつた――家けの令嬢明子あきこは、頭の禿げた父親と一しよに、今夜の舞踏会が催さるべき鹿鳴館ろくめいくあんの階段を上つて行つた。明あかるい瓦斯ガスの光に照らされた、幅の広い階段の両側には、殆ほとんど人工に近い大輪の菊の花が、三重の籬まがきを造つてゐた。菊は一番奥のがうす紅べに、中程のが濃い黄色、一番前のがまつ白な花びらを流蘇ふさの如く乱してゐるのであつた。さうしてその菊の籬の尽きるあたり、階段の上の舞踏室からは、もう陽気な管絃楽の音が、抑へ難い幸福の吐息のやうに、休みなく溢れて来るのであつた。

 明子は夙つとに仏蘭西フランス語と舞踏との教育を受けてゐた。が、正式の舞踏会に臨むのは、今夜がまだ生まれて始めてであつた。だから彼女は馬車の中でも、折々話しかける父親に、上うはの空の返事ばかり与へてゐた。それ程彼女の胸の中には、愉快なる不安とでも形容すべき、一種の落着かない心もちが根を張つてゐたのであつた。彼女は馬車が鹿鳴館の前に止るまで、何度いら立たしい眼を挙げて、窓の外に流れて行く東京の町の乏しい燈火ともしびを、見つめた事だか知れなかつた。

 が、鹿鳴館の中へはひると、間もなく彼女はその不安を忘れるやうな事件に遭遇した。と云ふのは階段の丁度中程まで来かかつた時、二人は一足先に上つて行く支那の大官に追ひついた。すると大官は肥満した体を開いて、二人を先へ通らせながら、呆あきれたやうな視線を明子へ投げた。初々うひうひしい薔薇色の舞踏服、品好く頸へかけた水色のリボン、それから濃い髪に匂つてゐるたつた一輪の薔薇の花――実際その夜の明子の姿は、この長い辮髪べんぱつを垂れた支那の大官の眼を驚かすべく、開化の日本の少女の美を遺憾ゐかんなく具へてゐたのであつた。と思ふと又階段を急ぎ足に下りて来た、若い燕尾服の日本人も、途中で二人にすれ違ひながら、反射的にちよいと振り返つて、やはり呆あきれたやうな一瞥いちべつを明子の後姿に浴せかけた。それから何故か思ひついたやうに、白い襟飾ネクタイへ手をやつて見て、又菊の中を忙しく玄関の方へ下りて行つた。

 二人が階段を上り切ると、二階の舞踏室の入口には、半白の頬鬚ほほひげを蓄へた主人役の伯爵が、胸間に幾つかの勲章を帯びて、路易ルイ十五世式の装ひを凝こらした年上の伯爵夫人と一しよに、大様おほやうに客を迎へてゐた。明子はこの伯爵でさへ、彼女の姿を見た時には、その老獪らうくあいらしい顔の何処かに、一瞬間無邪気な驚嘆の色が去来したのを見のがさなかつた。人の好い明子の父親は、嬉しさうな微笑を浮べながら、伯爵とその夫人とへ手短てみじかに娘を紹介した。彼女は羞恥しうちと得意とを交かはる交がはる味つた。が、その暇にも権高けんだかな伯爵夫人の顔だちに、一点下品な気があるのを感づくだけの余裕があつた。

 舞踏室の中にも至る所に、菊の花が美しく咲き乱れてゐた。さうして又至る所に、相手を待つてゐる婦人たちのレエスや花や象牙の扇が、爽かな香水の匂の中に、音のない波の如く動いてゐた。明子はすぐに父親と分れて、その綺羅きらびやかな婦人たちの或一団と一しよになつた。それは皆同じやうな水色や薔薇色の舞踏服を着た、同年輩らしい少女であつた。彼等は彼女を迎へると、小鳥のやうにさざめき立つて、口口に今夜の彼女の姿が美しい事を褒め立てたりした。

 が、彼女がその仲間へはひるや否や、見知らない仏蘭西フランスの海軍将校が、何処からか静に歩み寄つた。さうして両腕を垂れた儘、叮嚀に日本風の会釈ゑしやくをした。明子はかすかながら血の色が、頬に上つて来るのを意識した。しかしその会釈が何を意味するかは、問ふまでもなく明かだつた。だから彼女は手にしてゐた扇を預つて貰ふべく、隣に立つてゐる水色の舞踏服の令嬢をふり返つた。と同時に意外にも、その仏蘭西の海軍将校は、ちらりと頬に微笑の影を浮べながら、異様なアクサンを帯びた日本語で、はつきりと彼女にかう云つた。

「一しよに踊つては下さいませんか。」

 

 間もなく明子は、その仏蘭西の海軍将校と、「美しく青きダニウブ」のヴアルスを踊つてゐた。相手の将校は、頬の日に焼けた、眼鼻立ちの鮮あざやかな、濃い口髭のある男であつた。彼女はその相手の軍服の左の肩に、長い手袋を嵌はめた手を預くべく、余りに背が低かつた。が、場馴れてゐる海軍将校は、巧に彼女をあしらつて、軽々と群集の中を舞ひ歩いた。さうして時々彼女の耳に、愛想の好い仏蘭西語の御世辞さへも囁ささやいた。

 彼女はその優しい言葉に、恥しさうな微笑を酬いながら、時々彼等が踊つてゐる舞踏室の周囲へ眼を投げた。皇室の御紋章を染め抜いた紫縮緬ちりめんの幔幕まんまくや、爪を張つた蒼竜さうりゆうが身をうねらせてゐる支那の国旗の下には、花瓶々々の菊の花が、或は軽快な銀色を、或は陰欝いんうつな金色を、人波の間にちらつかせてゐた。しかもその人波は、三鞭酒シヤンパアニユのやうに湧き立つて来る、花々しい独逸ドイツ管絃楽の旋律の風に煽られて、暫くも目まぐるしい動揺を止めなかつた。明子はやはり踊つてゐる友達の一人と眼を合はすと、互に愉快さうな頷うなづきを忙しい中に送り合つた。が、その瞬間には、もう違つた踊り手が、まるで大きな蛾がが狂ふやうに、何処からか其処へ現れてゐた。

 しかし明子はその間にも、相手の仏蘭西の海軍将校の眼が、彼女の一挙一動に注意してゐるのを知つてゐた。それは全くこの日本に慣れない外国人が、如何に彼女の快活な舞踏ぶりに、興味があつたかを語るものであつた。こんな美しい令嬢も、やはり紙と竹との家の中に、人形の如く住んでゐるのであらうか。さうして細い金属の箸で、青い花の描いてある手のひら程の茶碗から、米粒を挾んで食べてゐるのであらうか。――彼の眼の中にはかう云ふ疑問が、何度も人懐しい微笑と共に往来するやうであつた。明子にはそれが可笑をかしくもあれば、同時に又誇らしくもあつた。だから彼女の華奢きやしやな薔薇色の踊り靴は、物珍しさうな相手の視線が折々足もとへ落ちる度に、一層身軽く滑なめらかな床の上を辷すべつて行くのであつた。

 が、やがて相手の将校は、この児猫のやうな令嬢の疲れたらしいのに気がついたと見えて、劬いたはるやうに顔を覗きこみながら、

「もつと続けて踊りませうか。」

「ノン?メルシイ。」

 明子は息をはずませながら、今度ははつきりとかう答へた。

 するとその仏蘭西の海軍将校は、まだヴアルスの歩みを続けながら、前後左右に動いてゐるレエスや花の波を縫つて、壁側かべぎはの花瓶の菊の方へ、悠々と彼女を連れて行つた。さうして最後の一廻転の後、其処にあつた椅子の上へ、鮮あざやかに彼女を掛けさせると、自分は一旦軍服の胸を張つて、それから又前のやうに恭うやうやしく日本風の会釈をした。

 

 その後又ポルカやマズユルカを踊つてから、明子はこの仏蘭西の海軍将校と腕を組んで、白と黄とうす紅と三重の菊の籬まがきの間を、階下の広い部屋へ下りて行つた。

 此処には燕尾服や白い肩がしつきりなく去来する中に、銀や硝子ガラスの食器類に蔽おほはれた幾つかの食卓が、或は肉と松露しようろとの山を盛り上げたり、或はサンドウイツチとアイスクリイムとの塔を聳そばだてたり、或は又柘榴ざくろと無花果いちじゆくとの三角塔を築いたりしてゐた。殊に菊の花が埋め残した、部屋の一方の壁上には、巧な人工の葡萄蔓ぶだうつるが青々とからみついてゐる、美しい金色の格子があつた。さうしてその葡萄の葉の間には、蜂の巣のやうな葡萄の房が、累々るゐるゐと紫に下つてゐた。明子はその金色の格子の前に、頭の禿げた彼女の父親が、同年輩の紳士と並んで、葉巻を啣くはへてゐるのに遇つた。父親は明子の姿を見ると、満足さうにちよいと頷いたが、それぎり連れの方を向いて、又葉巻を燻くゆらせ始めた。

 仏蘭西の海軍将校は、明子と食卓の一つへ行つて、一しよにアイスクリイムの匙さじを取つた。彼女はその間も相手の眼が、折々彼女の手や髪や水色のリボンを掛けた頸くびへ注がれてゐるのに気がついた。それは勿論彼女にとつて、不快な事でも何でもなかつた。が、或刹那には女らしい疑ひも閃ひらめかずにはゐられなかつた。そこで黒い天鵞絨びろうどの胸に赤い椿の花をつけた、独逸人らしい若い女が二人の傍を通つた時、彼女はこの疑ひを仄ほのめかせる為に、かう云ふ感歎の言葉を発明した。

「西洋の女の方はほんたうに御美しうございますこと。」

 海軍将校はこの言葉を聞くと、思ひの外真面目に首を振つた。

「日本の女の方も美しいです。殊にあなたなぞは――」

「そんな事はこざいませんわ。」

「いえ、御世辞ではありません。その儘すぐに巴里パリの舞踏会へも出られます。さうしたら皆が驚くでせう。ワツトオの画の中の御姫様のやうですから。」

 明子はワツトオを知らなかつた。だから海軍将校の言葉が呼び起した、美しい過去の幻も――仄暗い森の噴水と凋すがれて行く薔薇との幻も、一瞬の後には名残りなく消え失せてしまはなければならなかつた。が、人一倍感じの鋭い彼女は、アイスクリイムの匙を動かしながら、僅にもう一つ残つてゐる話題に縋すがる事を忘れなかつた。

「私も巴里の舞踏会へ参つて見たうございますわ。」

「いえ、巴里の舞踏会も全くこれと同じ事です。」

 海軍将校はかう云ひながら、二人の食卓を繞めぐつてゐる人波と菊の花とを見廻したが、忽ち皮肉な微笑の波が瞳の底に動いたと思ふと、アイスクリイムの匙を止めて、

「巴里ばかりではありません。舞踏会は何処でも同じ事です。」と半ば独り語のやうにつけ加へた。

 

 一時間の後、明子と仏蘭西フランスの海軍将校とは、やはり腕を組んだ儘、大勢の日本人や外国人と一しよに、舞踏室の外にある星月夜の露台に佇んでゐた。

 欄干一つ隔へだてた露台の向うには、広い庭園を埋めた針葉樹が、ひつそりと枝を交し合つて、その梢こずゑに点々と鬼灯提燈ほほづきぢやうちんの火を透すかしてゐた。しかも冷かな空気の底には、下の庭園から上つて来る苔の匂や落葉の匂が、かすかに寂しい秋の呼吸を漂はせてゐるやうであつた。が、すぐ後の舞踏室では、やはりレエスや花の波が、十六菊を染め抜いた紫縮緬ちりめんの幕の下に、休みない動揺を続けてゐた。さうして又調子の高い管絃楽のつむじ風が、相不変あひかはらずその人間の海の上へ、用捨ようしやもなく鞭を加へてゐた。

 勿論この露台の上からも、絶えず賑な話し声や笑ひ声が夜気を揺ゆすつてゐた。まして暗い針葉樹の空に美しい花火が揚る時には、殆ほとんど人どよめきにも近い音が、一同の口から洩れた事もあつた。その中に交つて立つてゐた明子も、其処にゐた懇意の令嬢たちとは、さつきから気軽な雑談を交換してゐた。が、やがて気がついて見ると、あの仏蘭西の海軍将校は、明子に腕を借した儘、庭園の上の星月夜へ黙然もくねんと眼を注いでゐた。彼女にはそれが何となく、郷愁でも感じてゐるやうに見えた。そこで明子は彼の顔をそつと下から覗きこんで、

「御国の事を思つていらつしやるのでせう。」と半ば甘えるやうに尋ねて見た。

 すると海軍将校は相不変微笑を含んだ眼で、静かに明子の方へ振り返つた。さうして「ノン」と答へる代りに、子供のやうに首を振つて見せた。

「でも何か考へていらつしやるやうでございますわ。」

「何だか当てて御覧なさい。」

 その時露台に集つてゐた人々の間には、又一しきり風のやうなざわめく音が起り出した。明子と海軍将校とは云ひ合せたやうに話をやめて、庭園の針葉樹を圧してゐる夜空の方へ眼をやつた。其処には丁度赤と青との花火が、蜘蛛手くもでに闇を弾はじきながら、将まさに消えようとする所であつた。明子には何故かその花火が、殆悲しい気を起させる程それ程美しく思はれた。

「私は花火の事を考へてゐたのです。我々の生ヴイのやうな花火の事を。」

 暫くして仏蘭西の海軍将校は、優しく明子の顔を見下しながら、教へるやうな調子でかう云つた。

 

       二

 

 大正七年の秋であつた。当年の明子は鎌倉の別荘へ赴おもむく途中、一面識のある青年の小説家と、偶然汽車の中で一しよになつた。青年はその時編棚の上に、鎌倉の知人へ贈るべき菊の花束を載せて置いた。すると当年の明子――今のH老夫人は、菊の花を見る度に思ひ出す話があると云つて、詳しく彼に鹿鳴館の舞踏会の思ひ出を話して聞かせた。青年はこの人自身の口からかう云ふ思出を聞く事に、多大の興味を感ぜずにはゐられなかつた。

 その話が終つた時、青年はH老夫人に何気なくかう云ふ質問をした。

「奥様はその仏蘭西の海軍将校の名を御存知ではございませんか。」

 するとH老夫人は思ひがけない返事をした。

「存じて居りますとも。Julien Viaud と仰有おつしやる方でございました。」

「では Loti だつたのでございますね。あの『お菊夫人』を書いたピエル?ロテイだつたのでございますね。」

 青年は愉快な興奮を感じた。が、H老夫人は不思議さうに青年の顔を見ながら何度もかう呟つぶやくばかりであつた。

「いえ、ロテイと仰有る方ではございませんよ。ジュリアン?ヴイオと仰有る方でございますよ。」

(大正八年十二月)

 

 

 

 

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