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日中阅读  舞踏会 (转载)

(2009-12-30 20:35:53)
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日中阅读

舞蹈会

芥川龍之介

日本小说

分类: 日本随笔

舞踏会(舞蹈会)

——芥川龍之介

 

       一

 

明治十九年十一月三日の夜であつた。当時十七歳だつた――家(け)の令嬢明子(あきこ)は、頭の禿げた父親と一しよに、今夜の舞踏会が催さるべき鹿鳴館(ろくめいくあん)の階段を上つて行つた。明(あかる)い瓦斯(ガス)の光に照らされた、幅の広い階段の両側には、殆(ほとんど)人工に近い大輪の菊の花が、三重の籬(まがき)を造つてゐた。菊は一番奥のがうす紅(べに)、中程のが濃い黄色、一番前のがまつ白な花びらを流蘇(ふさ)の如く乱してゐるのであつた。さうしてその菊の籬の尽きるあたり、階段の上の舞踏室からは、もう陽気な管絃楽の音が、抑へ難い幸福の吐息のやうに、休みなく溢れて来るのであつた。

 

時當明治十九年(1)十一月三日晚,芳齡十七的名門小姐明子,和已見謝頂的父親,一起登上鹿鳴館的樓梯,參加今晚在這儿舉行的舞會。明亮的瓦斯燈下,寬闊的樓梯兩側,是三道菊花園成的花篱,菊花大得像是人造的假花。最里層是淡紅,中間深黃;前面雪白,白花瓣像流蘇一樣錯落有致。菊篱的盡頭,台階上面的舞廳里,歡快的管弦樂聲,仿佛是無法抑制的幸福的低吟,片刻不停地飄蕩過來。

(1)即公元一八八六年。

 

明子は夙(つと)に仏蘭西(フランス)語と舞踏との教育を受けてゐた。が、正式の舞踏会に臨むのは、今夜がまだ生まれて始めてであつた。だから彼女は馬車の中でも、折々話しかける父親に、上(うは)の空の返事ばかり与へてゐた。それ程彼女の胸の中には、愉快なる不安とでも形容すべき、一種の落着かない心もちが根を張つてゐたのであつた。彼女は馬車が鹿鳴館の前に止るまで、何度いら立たしい眼を挙げて、窓の外に流れて行く東京の町の乏しい燈火(ともしび)を、見つめた事だか知れなかつた。

 

明子很早就學會法語,受過舞蹈訓練,但正式參加舞會,今晚還是有生以來頭一回。所以在馬車里,回答父親不時提出的問話,總是心不在焉。她心里七上八下,也可以說,興奮之中帶點儿緊張。直到馬車停在鹿鳴館前,她已焦急地不知有多少次抬眼望向窗外,瞧著東京街頭稀疏的燈火一閃而過。

 

が、鹿鳴館の中へはひると、間もなく彼女はその不安を忘れるやうな事件に遭遇した。と云ふのは階段の丁度中程まで来かかつた時、二人は一足先に上つて行く支那の大官に追ひついた。すると大官は肥満した体を開いて、二人を先へ通らせながら、呆(あき)れたやうな視線を明子へ投げた。初々(うひうひ)しい薔薇色の舞踏服、品好く頸へかけた水色のリボン、それから濃い髪に匂つてゐるたつた一輪の薔薇の花――実際その夜の明子の姿は、この長い辮髪(べんぱつ)を垂れた支那の大官の眼を驚かすべく、開化の日本の少女の美を遺憾(ゐかん)なく具へてゐたのであつた。と思ふと又階段を急ぎ足に下りて来た、若い燕尾服の日本人も、途中で二人にすれ違ひながら、反射的にちよいと振り返つて、やはり呆(あき)れたやうな一瞥(いちべつ)を明子の後姿に浴せかけた。それから何故か思ひついたやうに、白い襟飾(ネクタイ)へ手をやつて見て、又菊の中を忙しく玄関の方へ下りて行つた。

 

可是,剛進鹿鳴館,就遇到一件事儿,倒讓她忘了不安。樓梯上到一半,赶上一位中國高官。這位高官閃開肥胖的身軀,讓他們父女先過,眼睛痴痴地望著明子。明子一身玫瑰色的禮服,顯得嬌艷欲滴。脖子上系了一條淡藍色絲帶,濃密的秀發里,僅別了一朵玫瑰花,散發出陣陣幽香——不用說,那夜,明子的丰姿,把文明開化后日本少女的美,展示得淋漓盡致,准是讓那個拖著長辨子的中國高官看得目瞪口呆。這時,又有一位身著燕尾服,匆匆下樓的年輕日本人擦身而過,他下意識地回過頭來,同樣愕然地向明子背影投去一瞥。隨即若有所思地用手理了一下白領帶,從菊花叢中朝大門口匆匆走去。

 

二人が階段を上り切ると、二階の舞踏室の入口には、半白の頬鬚(ほほひげ)を蓄へた主人役の伯爵が、胸間に幾つかの勲章を帯びて、路易(ルイ)十五世式の装ひを凝(こ)らした年上の伯爵夫人と一しよに、大様(おほやう)に客を迎へてゐた。明子はこの伯爵でさへ、彼女の姿を見た時には、その老獪(らうくあい)らしい顔の何処かに、一瞬間無邪気な驚嘆の色が去来したのを見のがさなかつた。人の好い明子の父親は、嬉しさうな微笑を浮べながら、伯爵とその夫人とへ手短(てみじか)に娘を紹介した。彼女は羞恥(しうち)と得意とを交(かは)る交(がは)る味つた。が、その暇にも権高(けんだか)な伯爵夫人の顔だちに、一点下品な気があるのを感づくだけの余裕があつた。

 

父女兩人走上樓。在二層舞廳門前,蓄著半自絡腮胡子的主人伯爵大人,胸前佩著几枚勳章,同一身路易十五時代裝束的老伯爵夫人相并佇立,雍容高雅地迎接著賓客。伯爵看到明子時,那張老謀深算的臉上,剎那間掠過一絲毫無邪念的惊歎之色。就連這,也沒能逃過明子的眼睛。明子那為人隨和的父親,面帶笑容,高興地用三言兩語,把女儿介紹給伯爵夫婦。明子半是嬌羞,半是得意,但同時,也覺得權勢顯赫的伯爵夫人,容貌里仍沾有那么一點粗俗。

 

舞踏室の中にも至る所に、菊の花が美しく咲き乱れてゐた。さうして又至る所に、相手を待つてゐる婦人たちのレエスや花や象牙の扇が、爽かな香水の匂の中に、音のない波の如く動いてゐた。明子はすぐに父親と分れて、その綺羅(きら)びやかな婦人たちの或一団と一しよになつた。それは皆同じやうな水色や薔薇色の舞踏服を着た、同年輩らしい少女であつた。彼等は彼女を迎へると、小鳥のやうにさざめき立つて、口口に今夜の彼女の姿が美しい事を褒め立てたりした。

 

舞廳里,也到處是盛開的菊花,美不胜收。而且,無處不是等候邀舞的名媛貴婦,她們身上的花邊、佩花和象牙扇,在爽适的香水味里,宛如無聲的波浪在翻涌。明子很快离開父親,走到艷麗的婦人堆里。這一小堆人,都是同齡少女,穿著同樣淡藍色或玫瑰色的禮服。她們歡迎她,像小鳥般喊喊喳喳,交口稱贊她今晚是多么迷人。

 

 が、彼女がその仲間へはひるや否や、見知らない仏蘭西(フランス)の海軍将校が、何処からか静に歩み寄つた。さうして両腕を垂れた儘、叮嚀に日本風の会釈(ゑしやく)をした。明子はかすかながら血の色が、頬に上つて来るのを意識した。しかしその会釈が何を意味するかは、問ふまでもなく明かだつた。だから彼女は手にしてゐた扇を預つて貰ふべく、隣に立つてゐる水色の舞踏服の令嬢をふり返つた。と同時に意外にも、その仏蘭西の海軍将校は、ちらりと頬に微笑の影を浮べながら、異様なアクサンを帯びた日本語で、はつきりと彼女にかう云つた。

「一しよに踊つては下さいませんか。」

 

可是,同她們剛待在一起,便不知從哪儿,靜靜地走來一個從未見過面的法國海軍軍官。軍官雙手低垂,彬彬有禮,作一日本式的鞠躬。明子感到一抹紅云悄悄爬上了粉頰。這鞠躬的意思,不用問,她當然明白。于是便回過頭,把手中扇子交給站在一旁,穿淡藍色禮服的少女。出乎意料的是,海軍軍官臉上浮出一絲笑意,竟用一种帶异樣口音的日語,清楚地說道:

“能不能賞光跳個舞?”

 

間もなく明子は、その仏蘭西の海軍将校と、「美しく青きダニウブ」のヴアルスを踊つてゐた。相手の将校は、頬の日に焼けた、眼鼻立ちの鮮(あざやか)な、濃い口髭のある男であつた。彼女はその相手の軍服の左の肩に、長い手袋を嵌(は)めた手を預くべく、余りに背が低かつた。が、場馴れてゐる海軍将校は、巧に彼女をあしらつて、軽々と群集の中を舞ひ歩いた。さうして時々彼女の耳に、愛想の好い仏蘭西語の御世辞さへも囁(ささや)いた。

 

很快,明子和法國海軍軍官踩著《藍色多瑙河》的節拍,跳起了華爾茲。軍官的臉色給烈日晒得黧黑,他相貌端正,輪廓分明,胡須很濃重;明子把戴著長手套的手、搭在舞伴軍服的左肩上,可是她個子太矮了。早已熟悉這种場面的海軍軍官,巧妙地帶著她,在人群中邁著輕松的舞步。還不時在她耳畔,用惹人喜歡的法語,說些贊美之詞。

 

彼女はその優しい言葉に、恥しさうな微笑を酬いながら、時々彼等が踊つてゐる舞踏室の周囲へ眼を投げた。皇室の御紋章を染め抜いた紫縮緬(ちりめん)の幔幕(まんまく)や、爪を張つた蒼竜(さうりゆう)が身をうねらせてゐる支那の国旗の下には、花瓶々々の菊の花が、或は軽快な銀色を、或は陰欝(いんうつ)な金色を、人波の間にちらつかせてゐた。しかもその人波は、三鞭酒(シヤンパアニユ)のやうに湧き立つて来る、花々しい独逸(ドイツ)管絃楽の旋律の風に煽られて、暫くも目まぐるしい動揺を止めなかつた。明子はやはり踊つてゐる友達の一人と眼を合はすと、互に愉快さうな頷(うなづ)きを忙しい中に送り合つた。が、その瞬間には、もう違つた踊り手が、まるで大きな蛾(が)が狂ふやうに、何処からか其処へ現れてゐた。

 

 

明子對這些溫文爾雅的話語,報以一絲羞澀的微笑,一邊不時地把目光投向舞廳的四周。紫色縐綢的帷幔,印著皇室的徽章,大清帝國的國旗,畫著張牙舞爪的青龍;在帷幔和旗幟之下,一瓶瓶菊花,在起伏的人海中,時而露出明快的銀色,對而透出沉郁的金色。然而,起伏的人海像香檳酒一樣歡騰,在華麗的德意志管弦樂曲的誘惑下,一刻不停地回旋,令人眼花繚亂。明子与一個正在曼舞的女友目光相遇,遽忙之中,互送一個愉快的眼風。就在這一瞬間,另一對舞伴,像狂飛的大娥,不知從哪里現身出來。

 

しかし明子はその間にも、相手の仏蘭西の海軍将校の眼が、彼女の一挙一動に注意してゐるのを知つてゐた。それは全くこの日本に慣れない外国人が、如何に彼女の快活な舞踏ぶりに、興味があつたかを語るものであつた。こんな美しい令嬢も、やはり紙と竹との家の中に、人形の如く住んでゐるのであらうか。さうして細い金属の箸で、青い花の描いてある手のひら程の茶碗から、米粒を挾んで食べてゐるのであらうか。――彼の眼の中にはかう云ふ疑問が、何度も人懐しい微笑と共に往来するやうであつた。明子にはそれが可笑(をか)しくもあれば、同時に又誇らしくもあつた。だから彼女の華奢(きやしや)な薔薇色の踊り靴は、物珍しさうな相手の視線が折々足もとへ落ちる度に、一層身軽く滑(なめらか)な床の上を辷(すべ)つて行くのであつた。

 

明子知道,這期間,法國海軍軍官的眼睛,一直在關注自己的一舉一動。這意味著,一個全然不了解日本的外國人,對她陶醉于跳舞感到好奇。這么漂亮的小姐,難道也會像玩偶一樣,住在紙糊和竹造的屋里么?難道也要用精細的金屬筷子,從只有掌心般大的青花碗里,夾食米粒么?——他眼中含著討人喜歡的笑意,但又時時閃過這樣的疑問。明子覺得又好笑,又得意。每逢對方把好奇的視線投在自己的腳下時,她那雙華麗的玫瑰色舞鞋,就在平滑的地板上愈發輕快地滑著、舞著。

 

 が、やがて相手の将校は、この児猫のやうな令嬢の疲れたらしいのに気がついたと見えて、劬(いたは)るやうに顔を覗きこみながら、

「もつと続けて踊りませうか。」

「ノン?メルシイ。」

明子は息をはずませながら、今度ははつきりとかう答へた。

 

但不久,軍官感到,這個貓咪似的姑娘已不胜疲乏,便怜惜地凝視著她的面龐問:

“還想繼續跳嗎?”

“Non,merci(2)”

(2)法語:不,謝謝

明子喘息著,坦率的回答。

 

するとその仏蘭西の海軍将校は、まだヴアルスの歩みを続けながら、前後左右に動いてゐるレエスや花の波を縫つて、壁側(かべぎは)の花瓶の菊の方へ、悠々と彼女を連れて行つた。さうして最後の一廻転の後、其処にあつた椅子の上へ、鮮(あざやか)に彼女を掛けさせると、自分は一旦軍服の胸を張つて、それから又前のやうに恭(うやうや)しく日本風の会釈をした。

 

于是,法國海軍軍官一邊繼續邁著華爾茲舞步,一邊帶她穿過前后左右旋轉著的花邊和佩花的人流,從容地靠向沿牆擺著的一瓶瓶菊花。等轉完最后一圈,漂亮地把她安頓在一把椅子上,自己挺了挺軍服下的胸膛,然后一如先前,恭敬如儀,作一日本式的敬禮。

 

その後又ポルカやマズユルカを踊つてから、明子はこの仏蘭西の海軍将校と腕を組んで、白と黄とうす紅と三重の菊の籬(まがき)の間を、階下の広い部屋へ下りて行つた。

 

后來,他們又跳過波爾卡和馬祖卡。然后,明子挽著法國海軍軍官,經過白的、黃的、淡紅的三層菊篱,朝樓下的大廳走去。

 

此処には燕尾服や白い肩がしつきりなく去来する中に、銀や硝子(ガラス)の食器類に蔽(おほ)はれた幾つかの食卓が、或は肉と松露(しようろ)との山を盛り上げたり、或はサンドウイツチとアイスクリイムとの塔を聳(そばだ)てたり、或は又柘榴(ざくろ)と無花果(いちじゆく)との三角塔を築いたりしてゐた。殊に菊の花が埋め残した、部屋の一方の壁上には、巧な人工の葡萄蔓(ぶだうつる)が青々とからみついてゐる、美しい金色の格子があつた。さうしてその葡萄の葉の間には、蜂の巣のやうな葡萄の房が、累々(るゐるゐ)と紫に下つてゐた。明子はその金色の格子の前に、頭の禿げた彼女の父親が、同年輩の紳士と並んで、葉巻を啣(くは)へてゐるのに遇つた。父親は明子の姿を見ると、満足さうにちよいと頷いたが、それぎり連れの方を向いて、又葉巻を燻(くゆ)らせ始めた。

 

這里,燕尾服和裸露的粉肩不停地來來去去,擺滿銀器和玻璃器皿的大台子上,有堆積成山的肉食和松露;有聳立似塔的三明治和冰淇淋;有筑成金字塔似的石榴和無花果。尤其屋子一側,尚未被菊花埋沒的牆上,有一美麗的金架子,架子上面,蔥綠的人工葡萄藤攀纏得巧奪天工。明子在金架子前,見到了略見謝頂的父親,他口銜雪茄,和一班年齡相仿的紳士站在一起。看到明子,父親滿意地略點下頭,便轉向同伴,又吸起了雪茄煙。

 

仏蘭西の海軍将校は、明子と食卓の一つへ行つて、一しよにアイスクリイムの匙(さじ)を取つた。彼女はその間も相手の眼が、折々彼女の手や髪や水色のリボンを掛けた頸(くび)へ注がれてゐるのに気がついた。それは勿論彼女にとつて、不快な事でも何でもなかつた。が、或刹那には女らしい疑ひも閃(ひらめ)かずにはゐられなかつた。そこで黒い天鵞絨(びろうど)の胸に赤い椿の花をつけた、独逸人らしい若い女が二人の傍を通つた時、彼女はこの疑ひを仄(ほの)めかせる為に、かう云ふ感歎の言葉を発明した。

 

法國海軍軍官和明子走到一張台子前,同時拿起盛冰淇淋的匙子。明子發覺,即使這工夫,對方的視線仍不時落在她的手上,頭發上,以及系著淡藍絲帶的脖子上。當然,對她來說,決不會引起什么不愉快的感覺,不過,有那么一瞬,某种女性的疑惑,仍不免閃過腦際。恰在這時,有兩個身著黑絲絨禮服,胸前別著紅茶花的德國妙齡女郎經過身旁,她有意透露自己的疑惑,便設辭感歎地說:

 

「西洋の女の方はほんたうに御美しうございますこと。」

 海軍将校はこの言葉を聞くと、思ひの外真面目に首を振つた。

「日本の女の方も美しいです。殊にあなたなぞは――」

「そんな事はこざいませんわ。」

「いえ、御世辞ではありません。その儘すぐに巴里(パリ)の舞踏会へも出られます。さうしたら皆が驚くでせう。ワツトオの画の中の御姫様のやうですから。」

 

“西方的女子,真是美得很呀!”。

 不料,海軍軍官聞言,認真地搖了搖頭。

“日本的女子也很美。特別是像小姐您這樣……”

“哪儿的話。”

“不,這決不是恭維話。以您現在這身裝束,就可出席巴黎的舞會。而且會艷惊四座。您就像瓦托(3)畫上的公主一樣。”

(3)Antoine Wtitteau(1684—1721),法國畫家。

 

明子はワツトオを知らなかつた。だから海軍将校の言葉が呼び起した、美しい過去の幻も――仄暗い森の噴水と凋(すが)れて行く薔薇との幻も、一瞬の後には名残りなく消え失せてしまはなければならなかつた。が、人一倍感じの鋭い彼女は、アイスクリイムの匙を動かしながら、僅にもう一つ残つてゐる話題に縋(すが)る事を忘れなかつた。

 

明子并不知道瓦托其人。因此,海軍軍官的話所喚起的她對美好往昔的幻想——幽幽的林中噴泉,和行將凋謝的玫瑰,轉瞬之間,便消失得無影無蹤。敏感過人的她,一邊攪動著冰淇淋的小匙,一邊不忘提起另一個話題:

 

「私も巴里の舞踏会へ参つて見たうございますわ。」

「いえ、巴里の舞踏会も全くこれと同じ事です。」

 海軍将校はかう云ひながら、二人の食卓を繞(めぐ)つてゐる人波と菊の花とを見廻したが、忽ち皮肉な微笑の波が瞳の底に動いたと思ふと、アイスクリイムの匙を止めて、

「巴里ばかりではありません。舞踏会は何処でも同じ事です。」と半ば独り語のやうにつけ加へた。

 

 “我也頗想參加巴黎的舞會呢。”

 “其實不必,巴黎的舞會,同這里毫無二致。”

 海軍軍官說著,掃視一下子周圍的人流和菊花,忽然眸子里露出一絲譏諷的微笑,停下攪動冰淇淋的匙子。

“豈止巴黎,舞會,哪儿都是一樣的。”他半自語地補上一句。

 

一時間の後、明子と仏蘭西(フランス)の海軍将校とは、やはり腕を組んだ儘、大勢の日本人や外国人と一しよに、舞踏室の外にある星月夜の露台に佇んでゐた。

 

一小時后,明子和法國海軍軍官依然挽著手臂,和眾多日本人、外國人一起,佇立在舞廳外星月朗照的露台上。

 

欄干一つ隔(へだ)てた露台の向うには、広い庭園を埋めた針葉樹が、ひつそりと枝を交し合つて、その梢(こずゑ)に点々と鬼灯提燈(ほほづきぢやうちん)の火を透(す)かしてゐた。しかも冷かな空気の底には、下の庭園から上つて来る苔の匂や落葉の匂が、かすかに寂しい秋の呼吸を漂はせてゐるやうであつた。が、すぐ後の舞踏室では、やはりレエスや花の波が、十六菊を染め抜いた紫縮緬(ちりめん)の幕の下に、休みない動揺を続けてゐた。さうして又調子の高い管絃楽のつむじ風が、相不変(あひかはらず)その人間の海の上へ、用捨(ようしや)もなく鞭を加へてゐた。

 

与舞台一欄之隔的大庭園里,覆蓋著一片針葉林;靜謐中,枝葉相交的枝頭上,小紅燈籠透出點點光亮。冰冷的空气中,和著下面庭園里散發出的青苔和落葉的气息,微微飄溢著一縷凄涼的秋意。可就在他們身后的舞廳里,依舊是那些花邊和花海,在印著皇室徽記十六瓣菊花的紫縐綢帷幔下,毫無休止地搖曳擺動著。而高亢的管弦樂,宛如旋風一般,照舊在人海上方,無情地揮舞著鞭子。

 

勿論この露台の上からも、絶えず賑な話し声や笑ひ声が夜気を揺(ゆす)つてゐた。まして暗い針葉樹の空に美しい花火が揚る時には、殆(ほとんど)人どよめきにも近い音が、一同の口から洩れた事もあつた。その中に交つて立つてゐた明子も、其処にゐた懇意の令嬢たちとは、さつきから気軽な雑談を交換してゐた。が、やがて気がついて見ると、あの仏蘭西の海軍将校は、明子に腕を借した儘、庭園の上の星月夜へ黙然(もくねん)と眼を注いでゐた。彼女にはそれが何となく、郷愁でも感じてゐるやうに見えた。そこで明子は彼の顔をそつと下から覗きこんで、

 

當然,露台上也熱鬧非常,歡聲笑語接連划過夜空,尤其當針葉林上的夜空,放出絢麗的煙火,几乎所有的人都同時發出嘩然的喧鬧聲。明子站在人群里,和相識的姑娘們一直在隨意地交談。俄頃,她察覺到,法國海軍軍官仍舊讓她挽住自己的手臂,默默望著星光燦爛的夜空,覺得他似在感受著一縷鄉愁。明子仰起頭,悄然望著他的面孔:

 

「御国の事を思つていらつしやるのでせう。」と半ば甘えるやうに尋ねて見た。

 すると海軍将校は相不変微笑を含んだ眼で、静かに明子の方へ振り返つた。さうして「ノン」と答へる代りに、子供のやうに首を振つて見せた。

「でも何か考へていらつしやるやうでございますわ。」

「何だか当てて御覧なさい。」

 

“是不是想起故鄉了?”她半帶撒嬌地詢問道。

 仍是那雙滿含笑意的眼睛,海軍軍官靜靜地轉向明子,用孩子般的搖頭,代替一聲“不”。

 “可您好像在想什么哪、”

 “那您猜猜看,我想什么呢?”

 

その時露台に集つてゐた人々の間には、又一しきり風のやうなざわめく音が起り出した。明子と海軍将校とは云ひ合せたやうに話をやめて、庭園の針葉樹を圧してゐる夜空の方へ眼をやつた。其処には丁度赤と青との花火が、蜘蛛手(くもで)に闇を弾(はじ)きながら、将(まさ)に消えようとする所であつた。明子には何故かその花火が、殆悲しい気を起させる程それ程美しく思はれた。

 

這時,聚在露台上的人群里,又像起風一樣,掀起一陣躁動。明子和海軍軍官心照不宣,停止了交談,眼睛望向庭園里壓在針葉林上的夜空。紅的和藍的煙火,在暗夜中射向四方,轉瞬即消弭于無。不知為何,明子覺得那束煙火是那么美,簡直美得令人不禁悲從中來。

 

「私は花火の事を考へてゐたのです。我々の生(ヴイ)のやうな花火の事を。」

暫くして仏蘭西の海軍将校は、優しく明子の顔を見下しながら、教へるやうな調子でかう云つた。

 

“我在想煙火的事儿。好比我們人生一樣的煙火。”

隔了一會儿,法國海軍軍官親切地俯視著明子,用教誨般的口吻說道。

 

 

       二

 

大正七年の秋であつた。当年の明子は鎌倉の別荘へ赴(おもむ)く途中、一面識のある青年の小説家と、偶然汽車の中で一しよになつた。青年はその時編棚の上に、鎌倉の知人へ贈るべき菊の花束を載せて置いた。すると当年の明子――今のH老夫人は、菊の花を見る度に思ひ出す話があると云つて、詳しく彼に鹿鳴館の舞踏会の思ひ出を話して聞かせた。青年はこの人自身の口からかう云ふ思出を聞く事に、多大の興味を感ぜずにはゐられなかつた。

 

         

 

大正七年的秋天,當年的明子去鐮倉別墅的途中,于火車里偶然遇見一位僅一面之雅的青年小說家。他正往行李架上放一束菊花,是准備送給鐮倉友人的。于是,當年的明子——現在的H老夫人,說她每逢看到菊花,就會想起往事,便把鹿鳴館舞會的盛況,詳細講給了小說家。听老婦人親口講她的回憶,青年小說家自然興致勃勃。

 

 その話が終つた時、青年はH老夫人に何気なくかう云ふ質問をした。

「奥様はその仏蘭西の海軍将校の名を御存知ではございませんか。」

するとH老夫人は思ひがけない返事をした。

 

「存じて居りますとも。Julien Viaud と仰有(おつしや)る方でございました。」

 

講完之后,青年不經意地問H老夫人:

 “夫人知道這位法國海軍軍官的名字嗎?”

 出乎意料,H老夫人回答道:

“當然知道。他叫Julien Viaud。”

 

「では Loti だつたのでございますね。あの『お菊夫人』を書いたピエル?ロテイだつたのでございますね。」

 青年は愉快な興奮を感じた。が、H老夫人は不思議さうに青年の顔を見ながら何度もかう呟(つぶや)くばかりであつた。

「いえ、ロテイと仰有る方ではございませんよ。ジュリアン?ヴイオと仰有る方でございますよ。」

 

(大正八年十二月)

 

“這么說是Loti了。就是寫《菊子夫人》的皮埃爾·洛蒂(4)。”

 (4)Pierre Loti(1850—1923),法國作家。原名Julien Viaud,一八六七年考入海軍學校,畢業后服務于海軍,開始四十二年之久的海上生涯。几乎每年都有作品問世,寫有《菊子夫人》(1887)等四十余部小說。普西尼的《蝴蝶夫人)(1904),故事就脫胎于《菊子夫人》。

 青年既愉快又興奮。H老夫人卻訝然看著青年的臉,喃喃地一再說:

 “不,他不叫洛蒂。叫于利安·維奧。”

                       (一九一九年十二月)

 

                           艾蓮 譯

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