[小说]零之使魔 番外篇 主人和使魔 才人的恶作剧

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动漫小说零之使魔日文 |
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作者:ヤマグチノボル【山口升】
名字:ゼロの使い魔 番外編 ご主人様と使い魔 才人のイタズラ【零之使魔 番外篇 主人和使魔 才人的恶作剧】
出处:兎塚エイジZeroゼロの使い魔イラストコレクション 【插画集】
买的插画集 对着手打出来的 (以前也有做过《塔巴萨外传3》《蒂法的烦恼》《露易兹的点心》)
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ゼロの使い魔 ご主人様と使い魔 才人のイタズラ
ヤマグチノボル
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)平民とバカにされて気障《きざ》な貴族
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#改ペ―ジ]
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[#改ペ―ジ]
ゼロの使い魔 ご主人様と使い魔 才人のイタズラ
才人《さいと》の上に馬乗りになりながら、ルイズが吼《ほ》えた。窓からは爽《さわ》やかな朝の光が差し込んでくるが、才人はまったくもう、爽やかな気分にはなれなかった。
「あんた! この下着いくらしたと思ってるのよ!」
ルイズの下で弱々しくうめきながら、才人は答えた。
「ひゃ、ひゃくえん」
「ひゃくえんってなによ。どこのお金よ~~~~~~!」
ルイズは立ち上がると、ぐりぐりぐり、と才人の胸を踏みつけた。
「おい、パンツ見えてる」
どんよりした声で才人が言うと、ルイズは、すました顔で言い放つ。
「はぁ? それがどうしたっていうのよ。あんたに見られたって、なんともないわよ。だって平民じゃない」
ぐぬぬぬ、と才人は怒りを覚えた。
そう。この桃髪の少女はそうなのである。つい先日、才人を魔法とやらで地球から呼び寄せ、使い魔として散々こき使ってくれるこの少女は、才人を“平民”と侮り、あろうことか着替えまで手伝わせる。
この世界は魔法使いが“貴族”として威張っているので、この桃髪の華奢《きゃしゃ》な少女……、ルイズとしてはそれが当たり前なのだろう。
でも、才人にとってじゃそうじゃない。
こっちの世界じゃ貴族は偉いのかもしれないが、地球生まれの才人には関係ない。
というか、パンツを見られてもはずかしがらない、というのは平民どころではなく、犬ネコ扱いである。人間以下ってことじゃないか!
才人はがばっと立ち上がると、ルイズを睨《にら》みつけた。
「お前な……、いい加減にしやがれ。貴族貴族ってなぁ……、俺《おれ》だって人間だぞ! いいか? 俺の国のお札にもなった、福沢諭吉先生は言いました。天は人の上に人をつくらず……」
「あんたの国はどーしたのよ。ここはトリスティンで、あんたはわたしの使い魔じゃない」
呆れた顔で、ルイズが言い放つ。
「く……」
「わかったら、今日は一日ご飯抜き! いいわね?」
「朝ご飯は?」
才人が情けない顔で尋ねたら、ルイズの目が吊《つ》り上がる。
「なに言ってんの? あんたね、仕事一つまともにできない使い魔に、食べさせる食事なんかあるわけないじゃないの!」
「横暴だ!人権侵害だ!」
文句を言ったら、ルイズはじろっと才人を睨みつけた。
「あんたねぇ、ギーシュに勝ったからって調子にのってるでしょ? だから仕事に身が入らないだわ」
「はぁ? それはカンケーねえよ! ほんとにただ、つい力が入っちまって、下着が破れただけだって!」
そう。才人はつい先日、平民とバカにされて気障《きざ》な貴族、ギーシュと決闘をしたばかり。そのとき何故か左手のルーンが光り、羽根みたいに身体が軽くなってギーシュをやっつけることができたのだが……。
ルイズはその一件で、才人が調子にのってると思っているらしい。
「嘘ばっかり。わたしの下着なんかバカらしく洗えないっていうんでしょ」
「当たり前だ」
憮然として才人が言ったら、ルイズは勝ち誇った笑みを浮かべた。
「ほら。やっぱり貴族を軽く見てるんじゃない!」
「あのな! 貴族だろうがなんだろうが、女の子の下着なんか洗えるかっていうの! 俺は男だぞ!」
「あと、その口の利き方! 何度言っても改めるつもりがないようね! とにかく今日は一日ご飯抜き。あんたが貴族に対する態度というものを学ぶまで、ずっとこうだからね」
「ひでえ!」
「ひどくないわ。あんたに与えている食事は、貴族のわたしたちが払っているお金で賄ってるの。その貴族を敬わないあんたが、食べられるわけないじゃない」
ルイズは、つん、と顔を背けると、朝食をとるために部屋を出て行った。才人は悔しくて、ルイズの枕《まくら》をぽかぽかと殴りつけた。
枕を殴ったところで腹が満たされるわけもないので、才人は厨房へと向かった。ここはギーシュと決闘以来、才人のオアシスになっている場所である。
なにせ顔を出せば、貴族をやっつけた才人を“我らの剣”と呼んでくれるコック長のマルトー父親や、気のいいシェスタが歓待してくれるのであった。
その日も才人が厨房に向かうと、とととと、メイドのシェスタが駆け寄ってくる。
「サイトさん!」
「やあシェスタ」
「もしかして……、またご飯を抜かれたんですか?」
「うん。洗濯してたらさ、下着を破っちゃったんだよ。それでメシ抜きだぜ」
「それは可哀想ですわね。そのぐらいでご飯を抜かれたら、しょっちゅうお皿を割ってるわたしなんて、飢え死にしちゃいますわ」
待っててくださいね、とシェスタはにっこり笑って奥へ消えた。
シェスタに用意してもらったシチューと白パンを腹いっぱいに詰め込むと、先ほどの怒りが強く蘇《よみが》ってくる。
「くそ……、考えみればみるほど、納得いかねえな」
勝手に呼び出されただけでも頭にくるのに、毎日下僕のようにこき使われるのである。いや、下僕そのものであった。おまけに、ちょっと文句を言ったら、すぐにご飯が抜かれる。こんな扱いは日本じゃありえない。
「まあ、貴族の方々ってのは、わがままなものですわ」
シェスタが、そんな才人を慰めるように言った。
「なんであんなにあいつら威張ってるんだ!」
才人は思い切りスプーンを齧《かじ》って叫んだ。
「なあシェスタ」
「は、はいっ!」
「おかしいと思わないか? 貴族だからって、こんなわがままが許されていいのか? 勝手に人を使い魔にして、着替えを手伝わせ、こき使い、あまつさえ下着を洗わせるなどという……、そりゃ最初はちょっとドキドキした俺がいました。でも、やっぱり腹立つ!」
シエスタは、頬《ほお》を染めて才人を見つめた。
「きっと……、サイトさんが貴族をやっつけておしまいになられたからですわ」
「え?」
才人ははっとした。
「わたし、初めて見ましたもん。平民が貴族に勝つところ。そんなサイトさんだから、ミス·ヴァリヴェールは厳しくお当たりになられるんだと思います」
なるほど……、と才人は思った。そいえばさっきルイズも言っていたではないか。
あんた、調子にのってるのよ、と。
「くそ。貴族がなんぼのもんだっつうの……」
才人はさらに怒りを強めた。そんな、一回勝ったぐらいで、ここまで意地悪をするとは……。平民平民ってなぁ……。
「だから、気をつけてくださいね?」
シエスタは心配そうな顔で才人を見つめ、手を握ってきた。
「え?」
顔を近づけてきたので、才人はしどろもどろになった。
「サイトさんにもしものことがあったら……、わたし、とても悲しいですわ。サイトさんはお強いですけど、後ろから魔法でも撃たれた日にはお手上げですわ。だから、あまり貴族の方々を怒らせるようなことはしないでくださいね」
なんていい子なんだ……、と才人は感動した。こんないい子なのに、魔法が使えるってだけで貴族に怯《おび》えて暮らしてるなんて可哀想じゃないか。
よし、と才人は決心した。
なんとしてもあの小生意気なルイズに、ちょっとお灸をすえてやっろうじゃないの。
そうすれば、シエスタたちも少しは溜飲《りゅういん》を下げることができるだろう。
こないだ、ギーシュをやっつけたときみたいに……。だがそれを口にはしない。うっかりそんなことを漏らして、万一、シエスタに迷惑がかかったら大変である。
「わかったよシエスタ。大丈夫。せいぜいあいつらのご機嫌をとることにするよ」
不敵な笑みを浮かべながら、才人は言い放つ。
「それがいいですわ」とシエスタはにっこりと笑った。
以前から、細かい悪戯《いたずら》は行っている。昨日は消し炭で顔に落書きをしてやった。だがすぐにバレて、メシを抜かれた。
……バレない工夫が大事だな。でもって恥ずかしくって、顔が真っ赤になるようなヤツだ。一応、女だから痛いのは勘弁してやる。
恥をかかせる、なにかいいアイデアはないだろうか?
「どうしたんですか?」
シエスタが、心配そうな顔で才人の顔を覗《のぞ》き込む。
「いや……、なんでもない。ねえシエスタ。仕事以外はどんなことしてるの?」
「え? 非番ってことですか? そうですね。 みんなとおしゃべりしたり……。カードをしたりとか」
「どんなことを話すの?」
なにか参考にならないかと、才人は尋ねてみた。
「そうですね……、恋の相談とか、お料理のお話だとか……、あ、最近は怖い話が流行ってます」
「怖い話?」
「ええ。占いとか。呪《まじ》いとか。幽霊の話とか。ま、本気で信じるわけじゃないですけど」
なるほど、俺の世界でも女の子はオカルト話好きだったもんなあ、と才人はぼんやりと思った。こっちの世界でもあまり事情は変わらないのだろう。
待てよ。
そっか。“怖い話”か……。
考えに考え抜き、才人は特大の笑みを浮かべた。
その日の午後……、ルイズはぷりぷりしながら自室へと帰ってきた。才人のことで、腹を立てていたのである。才人ときたら、授業のお伴に顔を出さなかったのだ。
きっと、ご飯を抜いたからスネたんだわ。これはきちんと教育してあげないと!
ルイズはばたん! と部屋の扉を開けた。
「サイト! あんたどうして今日は……」
そこまで怒鳴って、言葉が止まる。部屋がピカピカに掃除されていたのだ。部屋の真ん中に才人が立って、恭《うやうや》しく礼を寄越《よこ》す。
「お帰りなさいませ。お嬢さま」
「な、なによこれ」
「部屋のお片づけをしておきました」
「見ればわかるわよ。な、なによあんた。どうしたっていうのよ」
いったいどういう風の吹き回しだろう。いちいち反抗的な才人が、何も言われずに部屋の掃除をするなんて……。
「はぁ。本日のミスのお詫《わ》びでございます。ほら、この使い魔、お嬢さまの下着を破ってしまったではありませんか」
そして再び、才人は深々と頭を下げた。ルイズは軽く頬を染め、気まずそうに、こほん、と咳をすると精一杯に威厳を保ちながら、
「ふ、ふん。やればできるじゃないの」と、言い放った。
「ありがたいお言葉でございます」
「…………」
ルイズは無言で才人を見つめた。
なんだかやたらと腰の低い才人だった。反抗的だった今朝と比べたら、別人のようである。ここまで従順な態度だと逆に怪しい。
「……あんた、何か余計なこと考えているんじゃないでしょうね?」
「そんな! この使い魔、反省したのでございます! ああ、平民の身でありながら、貴族のお嬢さまにたてつくとはどれだけ罰当たりなんだろうかと! 深く深く反省したので、身も心もお嬢さまに捧《ささ》げる所存です」
「ほんと?」
「そりゃもう、すこぶるつきのホントですとも。はい」
なんだか怪しかったが、これ以上突っ込むのも平民の言動にいちいち振り回されているようでつまらない。ルイズは今日の従順の復習と、明日の予習をするべく机に向かう。生真面目なルイズは、人一倍勉強に打ち込んでいた。努力の割には、あまり結果は芳しくなかったが……。
広げたノートに目を通していると、隣に才人がやってきてお辞儀しながら何かを差し出した。
「なにこれ?」
「はあ。ハチミツとレモンを混ぜて作った飲み物でございます。飲むと、風をひかないのであります」
ふーん、と呟《つぶや》いて、ルイズはその液体を見つめた。一口すすってみると、なかなかいける。くぴくぴ、とルイズはハチミツとレモンのジュースを飲み干した。
「もっとありますよ」
「ちょうだい」
ジュースをごくごくと何杯も飲み干すルイズを、才人は笑みを浮かべて見守った。
双月の明かりが窓から差し込み、妖《あや》しく部屋を照らし出す。
ルイズは、ふぁあああああ、とあくびをすると、才人を促して着替え始める。着替え終わったルイズは、ベッドに潜り込んだ。
才人は藁束《わらたば》の上に座り込むと、神妙な顔で話し始めた。
「お嬢さま、わたし、今日面白い話しを聞いたのですが」
「面白い話?」
「ええ。昼ごろ、そこの中庭で何人かの方々が話していたのです。夜中、女子寮に幽霊が出るという……」
「幽霊? ばっかじゃないの。そんなのいるわけないじゃない」
ルイズは、はん、と呆れた声で言い放つ。
「じゃあいいです。おやすみなさい」
そうあっさり引かれると、逆に興味がわいてくる。ルイズは、ちょっと悔しそうな声で才人を促した。
「いいわ。暇だから聞くだけ聞いてあげる」
「夜中……、女子寮のトイレに入っているとですね。ドアが次々ノックされていくそうです。で、入っていると、こう声が聞こえるそうです」
「ふん。バカバカしい」
「ですね。バカバカしいですよね。じゃあ、話はこれで」
才人は藁束に潜り込む。そういう態度をとられると、バカバカしくても続きが聞きたくなる。
「いいから最後まで話しなさいよ。もったいぶらないで」
「はい。ノックをされてですね、若い女の声で尋ねられるそうです。『赤いパンツと青いパンツ、どっちがはきたいですか?』って」
「なによそれ」
「赤いパンツと答えるとですね、血まみれになって死んじゃうんです。で、青いパンツと答えると、体中から血を抜かれて死んじゃうそうです。答えないでいると……、翌日の夜、熱を出して死んじゃうそうです。どっちにしろ助からない。どうやら、貴族に恨みを抱いて死んだ平民の幽霊だとか……」
「なにそれ。そんなことあるわけないじゃない」
「バカバカしい」
「ま、お嬢さまは幽霊なんか平気ですよね。なにせ勇気と慈愛に満ち溢れていますからね。もしいたとしても幽霊のほうが逃げ出しますヨネ」
「なによ。バカにしてるの?」
「してません。まったく。これっぽっちも」
ふんと、呟いて、ルイズは目を瞑《つぶ》った。
その夜……。
ルイズはぱちりと目を覚ました。
トイレに行きたくなったのである。
さっき大量に飲んだ、ハチミツとレモンのジュースの所為《せい》だわ、とルイズは藁束の上でぐあー、と寝息を立てる才人のほうを睨んだ。
「…………」
いつしか月は雲に隠れ、部屋の中は真っ暗であった。ルイズはベッドから抜け出すとテーブルの上においてあるランプを取り上げ、スイッチと入れた。
「…………」
普段過ごしている自分の部屋なのに、妙に不気味に感じるのはさっきあんな話しを聞いたからだろうか? あんな子供騙《だま》し……、と思いつつも、夜の闇《やみ》は微かに感じた恐怖を何倍にも増幅させる。
トイレについてさせるために、才人を起こそうとしてルイズは思い直す。もし、トイレについてこい、なんて言ったら、怖がっているとバカにされる。
「ふ、ふんだ。幽霊なんかいるわけないんだから……」
そう強がりながら、ルイズはランプを持って、部屋を出た。
トイレは一階にあった。階段を下りると、ランプの明かりで影が長く伸びる。木のドアを押し開き、個室へと入る。
そのときである。
入り口がぎぃいいいいい、と開いて誰《だれ》かが入ってきた。
ルイズはばくっ! と身体をこわばらせた。
ま、まあ、夜中にトイレに行きたくなるのはわたしだけじゃないわよね……、と思い直していると、入ってきた人物は、奥から個室を一つ一つ、ノックして開け始めたのである。
とんとん。ぎぃー、ばたん。
とんとん。ぎぃー、ばたん。
個室は、入り口から数えて縦に六つ並んでいる。ルイズが入ったのは、一番入り口に近い個室であった。
扉は押すと開くようになっており、誰かが中に入っているときは、ドアノブの上にドラゴンのマークが出る。
というか、トイレを使う気がないのだろうか?
じゃあ、いったい何のためにノックして、ドアを開けているのだろう?
ルイズじゃ先ほどの才人の話しを思い出した。
『どうやら、貴族に恨みを抱いて死んだ平民の幽霊だとか……』
そ、そんなね、幽霊なんかいるわけないじゃない。ねえ?
ルイズは自分に言い聞かせた。そう。ハルケギニアで幽霊の存在は信じられていない。人は死ねば、天国(ヴァルハラ)に赴き、そこで神のもと一つになる……。
魂はあるが、目に見えないものだとルイズは教えられた。
魂は決して見えず、また、この世にとどまることはない。
それは神話の範疇《はんちゅう》であって、現世の話しではないのだった。
だが、怪談奇談の類は好んで話される。この魔法学院にしたって、新入生を怖がらせる目的で作られた恐怖譚《たん》は一つや二つではない。
ルイズはそんなの与太話と相手にしなかったが、まさか自分に降りかかってくるなんて……。
四つ目のドアがノックされた。そこでルイズは、はた、とひらめいた。幽霊なんていやしない、そう信じる心が、その可能性に行い着かせたのだろう。
これは自分の使い魔の仕業に間違いない。
先ほど、ジュースをたくさん自分に勧めたのは、この悪戯を実行するためなのだ。夜中にトイレに行かせて怖がらせる……。
だが、恐怖にすくんで身体が動かない。
とうとう、隣のドアが叩かれた。
トントン。ギィー。バタン。
ルイズの恐怖は最大限に達した。ガタガタと震えていると、ついに自分が入っている個室の扉が叩《たた》かれる。
トントン。
『若い女の声で尋ねられるそうです。“赤いパンツと青いパンツ、どっちがはきたいですか?”って』
繰り返し、ノックの音が響いた。
トントン。
ま、負けてたまるもんですか。ルイズはぐっと扉を睨みつけた。
それから……、ノブがガチャガチャと動かされる。ルイズは叫びそうになったが、こらえた。
若い女の声が響く。
「あの……、赤いパンツと青いパンツ、どっちがはきたいですか?」
ルイズの意識が遠くなる。気絶しそうになったが、こらえた。しばらく中で震えていたが、それ以上は何も起こらない。わけがわからなくなり、ルイズは個室を飛び出し階段を駆け上がり、部屋へと戻った。
才人は藁の上で寝息を立てていた。とにかく、才人の所為じゃない。するとやっぱり……。ルイズは顔が青ざめていくを感じた。
翌日の朝……。
ルイズがげっそりとやつれているのを見て、才人は作戦がうまくいったことを知った。楽しげにルイズの周りを飛び跳ねながら、朝のルイズの支度を手伝う。
「はいお嬢さま。お着替えをお手伝いいたしますですよ!」
するとルイズは、首を振った。
「今日は自分でやるわ」
「はい? なんてまた?」
「いいから後ろ向いてなさいな」
才人はこっそり鏡を使い、ルイズの様子を盗み見た。ルイズは制服を着替えたあと、随分思い悩んだ顔で、スカートの中に手を差し込み、すぅっとパンツを抜いてクローゼットの中にしまう。才人は笑いがこぼれそうになったが、こらえた。
食堂へと向かう道すがち、ぎこちなく歩くルイズの隣を、才人は意気揚々と歩く。
「も、もっとゆっくり歩きなさいよ」
顔を真っ赤にさせて、ルイズが命令する。そんなルイズの顔を、才人は不思議そうに覗き込む。
「いったい、どうなされたんですかぁ?」
もじもじと。スカートの裾《すそ》を握り締めながらルイズは答える。
「なんだか気分が悪そうですけど……」
「いいから! ほっときなさいよ!」
はいはい、と頷《うなず》きながら、才人は食堂に先回りしてシェスタに口止めしとかないと、と思い直す。
「あの、お嬢さま、わたくし、ちと用事がありまして……、お先に食堂へと向かいたいのですが」
「だめ。いいから、ゆっくりわたしについてきなさい」
ま、隙《すき》を見て話せばいいか、と思った瞬間、才人は飛び上がった。なんと目の前から洗濯籠を抱えたシエスタが歩いてくるではないか!
シエスタは才人を見つけると、たたたたたた、と嬉《うれ》しそうに駆け寄ってきた。
「サイトさん! おはようございます!」
「お、おはよう」
「えっと、昨日のことなんですけど……」
「ああそれね。ま、あっちで話そうじゃないの」
慌ててそう言おうとしたら、ルイズに止められる。
「離れるなって言ったじゃないの」
シエスタの声で何かに感づいたルイズが、才人の肩を掴んだ。シエスタは、屈託のない顔で昨夜の報告を始めた。昨夜、口止めをすべきだったが……、貴族をやりこめる計画に、貴族を怖がるシエスタが賛成するわけがない。だから、うまくいった場合にほんとのことを話そうと思っていたのだが……。
「わたし、昨夜サイトさんがおっしゃたとおり、女子寮のトイレの点検に行ったんです」
才人の額から、イヤな具合の汗が流れ始めた。
「女子寮のトイレの点検?」
ルイズが尋ねた。
「はい。鍵《かぎ》が壊れいる、とサイトさんがおっしゃるから……。確かに一個だけ、開かない扉がありました。でも、サイトさんがおっしゃった魔法の合言葉を言っても開きませんでしたわ。その合言葉は確か、女子寮トイレ共通のマスターキーなんですよね? その言葉を口にすれば、扉が強制的に開くって……」
才人は駆け出した。
「あ、サイトさんどこに?」
ルイズはこめかみをひくつかせながら、シエスタに尋ねた。
「その魔法の合言葉は、なんていうの?」
「えっと確か……、『赤いパンツと青いパンツ、どっちがはきたいですか』でしたわ」
ルイズは山盛りになった洗濯物から、ドロワーズを一つ、取り上げた。
「あ、ミス·ヴァリエール。何を……」
がぱっとルイズはそのドロワーズをはきこんだ。
「貸しといて。あとで、洗わせて、返すわ」
「は、はい……」
ルイズの剣幕に怯えて、シエスタが後じさる。
「はきたいパンツを教えてあげるわ」
ルイズは大きく深呼吸すると、信じられないスピードで駆け出した。
「怒りのパンツよ!」
あたふたと逃げる才人と、全身から怒りのオーラをみなぎらせてその背を追いかけるルイズを、シエスタは心配そうに見つめた。
「あんまりひどいことにならなきゃいいけど……」
それからにっこりと、シエスタは微笑んだ。
「でも、これでサイトさん、毎日厨房にいらしてくれますわね♪」
[#改ペ―ジ]
兎塚エイジZeroゼロの使い魔イラストコレクション
平成廿五年一月十五日 入力 阿波霊
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