次の文中の①~~⑧の――線部のことばはそれぞれなにを指しているか、本文中のことばで答えなさい。
六つになる親類の子どもが、去年の暮れから東京へ来ている。これ①に、東京と国とどっちがいいか、と聞いたら、お国の方がいい、といった。どうしてか、と聞くと、お国の川はえびがいるからと答えた。この子どもの、えびと言ったのは、かならずしも動物学上のえびのことではない。えびのいる清らかな小川の流れ、それ②に緑の影をひたす森や山、河畔に咲き乱れる草の花、そういうようなもの③の全体をひっくるめた、いなかの自然を象徴するえびでなければならない。東京でさかな屋から魚を買って来てこの子どもにやってみれば、このこと④は容易に証明されるであろう。
わたくし自分も、このえびのことを考えると、いなかが恋しくなる。しかし、それ⑤は現在のいなかではなくして、過去の思い出のいなかである。えびはいまでもいるが、「子どものわたくし」はもうそこ⑥にはいないからである。
しかし、この「子どものわたくし」は今でも「おとなのわたくし」のなかのどこかに隠れている。そして、意外な時に出てきて外界をのぞくことがある。たとえば、郊外を歩いていて、道ばたの名もない草の花を見る時や、あるいは、遠くの杉の木のこずえの神秘的な色彩を見ている時に、わずかの瞬間だけではあるが、このえびの幻影⑦を認めることができる。それ⑧が消えたあとに残るものは、淡い「時の悲しみ」である。