日本語中国通訳への道~Part3会議通訳者?蔡院森さん
(2011-09-26 13:18:57)
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杂谈 |
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「日々新たなり」をモットーに
中国で「一番忙しい通訳者」として知られる蔡院森さん。中日政府間交渉から各種専門分野の国際会議、そして、「3・11」東日本大地震後の震災報道の放送通訳まで、中日交流の様々な分野で活躍しており、クライアントから強い信頼を得ています。通訳の技を極めるコツについて聞いてきました。
■空気のような通訳を目指す
――蔡さんは「通訳」という仕事をどうとらえているのですか。
空気のようなものになれたらいいなと思っています。願わくば周りにその存在を忘れさせたい。例えて言うならば、良い通訳者は、酸素がたっぷり入っている新鮮な空気のようです。それに対して、それほど良くない通訳者は二酸化窒素の濃度が高い空気のようです。万が一、重大ミスでも犯してしまうと、放射能漏れのように大きな害を招きかねません。一例を挙げれば、原発事故関連で、放射線量の単位は「ミリシーベルト」だったか「マイクロシーベルト」だったか、もし訳し間違えると大変なことになってしまいます。
――通訳と翻訳、どちらがより難しいとお考えですか。
それぞれ個性が違うかと思います。
翻訳は、辞書やインターネットで調べたり、ディスカッションなどで字句を十分練ったりすることができるので、比較的しやすいですが、通訳は、聞いた話を的確に理解した上で、すぐにそれを外国語で表現しなければいけません。逐次通訳はまだメモが取れますが、同時通訳となると、聞きながら訳すので、通訳の中でも最上級のものだとよく言われています。
たしかに、その通りのことだとは思います。ただ、それぞれ個性が違うからこそ、実際の仕事においては、実は、難しさの順番は逆になっていると私はそう受け止めています。
つまり、求められている完成度が、翻訳は100%、逐次通訳は95%、同時通訳となる80%ぐらい訳せば上出来と言えるでしょう。翻訳の場合は、ぴったりの表現を探し求めるため、1日かけて悩み続けるという話も良く聞きます。また、逐次通訳の場合、会議参加者の中には、どちらの言葉にも精通している関係者も多く、通訳の不適切な表現がいつ指摘されてもおかしくないプレッシャーにさらされます。それに比べれば、とっさの反応と効率良さが求められる同時通訳の場合、とりあえずそういったことで心配しなくても良いかなと思います。
たとえて言うならば、同時通訳はファーストフードで、とりあえずの腹ごしらえが一番の目的です。それに比べて、逐次通訳はディナーで、栄養のバランスもよく、合理的に食事できるよう工夫しなければいけません。さらに、翻訳の場合は懐石料理にあたり、栄養分のほか、味付けも盛り付けもすべて良いものが求められています。
――通訳と翻訳は、互いに影響しあっている関係でもありますか。
そうだと思います。やはり、翻訳が基礎じゃないかと思います。日ごろの翻訳の積み重ねがあるからこそ、通訳する時にも、スピーディーな反応と熟練した言語の切り替えが初めて可能になります。逆に、普段からできるだけ通訳の量をこなして、生きた言語に触れるようにしてこそ、表現力を豊富にし、翻訳レベルの向上につながっていくと思います。
■言葉の予測力を高めよ
――通訳の際、いつも心がけていることは?
まず、「言葉」というのは、口に出す前は、自分がその主人ですが、いったん口にしてしまうと、自分がその奴隷になる、そういう心構えが必要かと思います。言葉を操る仕事というのは、それほど真剣なことでもあるのです。
それを踏まえて、同時通訳の場合は、発言者の話そのものを、逐次通訳の場合は、話し手の表現したい真意を忠実に伝えるよう頑張ることです。何よりも、通訳の個人意見を混ぜてはいけません。たとえば、日本側の話を通訳する際は、「尖閣諸島」、「スプラトリー諸島」などの言葉はそのまま日本側の言い方に従います。中国側の通訳をつとめる場合、「釣魚島」、「南沙諸島」と訳します。話し手の立場に一致することが大事かと思います。
それから、聞きやすい訳を心がけることですね。たとえば、日本と中国とて、習慣的に、量を現す単位が違う場合があります。畑の大きさを言う時、中国は「亩」という単位を使い、家の大きさを言う時、日本では「坪」を用いることが多いです。そうした場合、できることなら、事前に相手側が聞いてぴんと来る単位に直すようにすることです。
――同時通訳の実戦におけるコツを聞かせてください。たとえば、意味が聞き取れなかったり、発言者の話すスピードが速すぎて追いつけなかったりした時、蔡さんはどう対応しているのですか。
聞き取れないというのが、通訳にとって一番悩ましいことですね。そういう場合、大いに連想と予測の力を生かすことが必要かと思います。もちろん、それができるために、事前に関連知識をしっかりと調べて、勉強しておくことが必要です。
そうしたケースに本当にぶつかったとしても、大事なのは、聞き取れなかった単語に気を取られ過ぎないように気を持ち直すことです。発言者の話はまだ続いているので、全体の流れをしっかりつかんで訳し続けるようにしなければいけません。もしかして、さっき聞き取れなかった言葉が後で繰り返されるかもしれませんので、その時にまた補足するチャンスが出るということも含めて、訳し続けていくことです。
話すスピードについては、主催者などを通して、発言者に気をつけてもらうよう、事前に注意を喚起する手もありますが、それでも、癖でつい早口になってしまう人もいます。そうした時でも、焦らずに全体の意味を捕まえて、ポイントをもらさず訳出するよう頑張る必要があります。
もう一つ、話の中に数字がたくさん出てくる場合、瞬間記憶力でそれを全部覚えるのは不可能ですので、必ず手元にメモ道具を用意しておくようお勧めします。
■ 日々新たなり
――どうすれば、優秀な通訳者になれると思いますか。
「信」は訳者の語学力に対しての試練で、「達」はその論理性への検証で、「雅」はその文学的素養の試金石だと思います。優秀な通訳者は、優れた表現力、雑学を含めて幅広い知識を身につけておく必要があると思います。情報化社会の今、パソコン、携帯電話、インターネットなど様々なツールがあり、知識の習得は今までのどの時期よりもしやすくなっています。ですから、旺盛な好奇心さえあれば、知識を身につけることはそれほど難しいことではないと思います。
ただ、そうした中で、読書の大切さを訴えたいです。「美しい表現」を使いこなせるには、インターネットや新聞だけに頼っては足りません。大量の文学作品を読んでおくことが必要だと思います。読書を通して積み重ねた知識は、いつの間にか自分の血液にしみ込んで、体の一部となり、必要な時に自然と出てくるのです。
――蔡さんは日ごろ、どのようにして通訳の技を磨いているのですか。
勉強法は人にもよりけりですが、僕の勉強法をご紹介しますと、
①翻訳でしっかりとした基礎を築いておくことです。同時通訳をこなしたければ、まずは翻訳でしっかりとした中国語?日本語の基礎を築いておくことが必要です。
②声を出して練習することです。毎日、少なくとも朝晩30分ずつ、シャドーイング(Shadowing)やリプロダクション(Reproduction)を練習します。
③分類単語帳の整理と作成です。仕事の度に、新しい専門用語、間違いやすい言葉などを単語帳に付け加えます。そして、定期的に順番の並び替えなどを行なって整理します。
私の例をあげれば、2008年に中日眼科会議で、日本の専門家が抗生物質と薬剤耐性について発言した時、同時通訳を担当しました。「レボフロキサシン」、「カルボパペネム」などの専門用語が出てきましたが、それを単語帳にタイムリーに更新し、整理したお陰で、最近の関連会議でスムーズに通訳ができました。
③英語の大切さを認識することです。
英語は中日通訳としても非常に重要です。日本語には、自動車、IT、金融、知的財産権、生物、省エネなどの分野で英語からの外来語が多いです。英語をうまく把握できれば、カタカナの外来語も覚えやすくなると思います。同時通訳で分からない外来語がありましたら、そのまま英語で伝えても聞き手は分かると思います。外来語は語源である英語と一緒に覚えたほうが良いでしょう。
――これから通訳を目指す者に対して、蔡さんから贈る言葉は?
知的好奇心と豊かな連想の力、予想力が同時通訳にとってとりわけ重要なのです。絶えず世の中で起きていることにアンテナを張って、学習し続けることを忘れないでください。
また、通訳を目指す者は、往々にして、夢中になって外国語学習に取り組んでいますが、母国語力も決して愚かにしないように。通訳の到達できるレベルは、結局その人の母国語力にかかっているからです。母国語力を磨くことも怠らないよう頑張ってください。
最後に、「継続は力なり」、「ツキも実力の内」、「日々新たなり」という私がモットーにしている言葉を皆さんにお贈りします。