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竹取物語原文

(2007-03-16 18:27:57)

竹取物語

一 かぐや姫の生い立ち

いまは昔、竹取の翁といふもの有けり。野山にまじりて竹を取りつゝ、よろづの事に使ひけり。名をば、さかきの造となむいひける。その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。あやしがりて寄りて見るに、筒の中光りたり。それを見れば、三寸ばかりなる人いとうつくしうてゐたり。翁いふやう、「我朝ごと夕ごとに見る竹の中におはするにて、知りぬ。子となり給ふべき人なめり」とて、手にうち入れて家へ持ちて来ぬ。妻の女にあづけて養はす。うつくしき事かぎりなし。いとをさなければ籠に入れて養ふ。竹取の翁、竹を取るに、この子を見つけて後に竹とるに、節を隔てゝよごとに金ある竹を見つくる事かさなりぬ。かくて翁やうやう豊になり行く。この児、養ふ程に、すくすくと大きになりまさる。三月ばかりになる程によき程なる人になりぬれば、髪上げなどさうして、髪上げさせ、裳着す。帳のうちよりも出ださず、いつき養ふ。この兒のかたちけうらなる事世になく、屋のうちは暗き所なく光り滿ちたり。翁、心地あしく苦しき時も,この子を見れば、苦しき事もやみぬ、腹立たしきことも慰みけり。翁、竹を取る事久しくなりぬ。いきほひ猛の者に成にけり。この子いと大きに成りぬれば、名を、三室戸齋部のあきたをよびて、つけさす。あきた、なよ竹のかぐや姫とつけつ。この程三日うちあげ遊ぶ。よろづの遊びをぞしける。をとこはうけきらはず呼び集へて、いとかしこく遊ぶ。

二 つまどひ

 世界の男、貴なるも賤しきも、いかでこのかぐや姫を得てしがな、見てしがなと、をとに聞きめでゝ、惑ふ。その邊りの墻にも、家のとにも、をる人だにたはやすく見るまじき物を、夜るは安きいも寢ず、闇の夜に出て、穴をくじり、かいばみ、惑ひあへり。さる時よりなむ「よばひ」とは言いける。人のおともせぬ所に惑ひありけども、なにの驗あるべくも見えず。家の人どもに物をだに言はんとて、言ひかゝれども、ことゝもせず。あたりを離れぬ君逹、夜をあかし、日をくらす多かり。おろかなる人は、「ようなきありきは、よしなかりけり」とて、来ずなりにけり。その中になほ言ひけるは、色好みといはるゝかぎり五人、思ひやむ時なく夜昼来ける、その名ども、石つくりの御子・くらもちの皇子・右大臣あべのみむらじ・大納言大伴のみゆき・中納言いそのかみのまろたり、この人々なりけり。

 世の中に多かる人をだに、すこしもかたちよしと聞きては、見まほしうする人どもなりければ、かぐや姫を見まほしうて物も食はず思ひつつ、かの家に行きてたたずみありきけれど、かひあるべくもあらず。文を書きてやれど、返事せず。わび歌など書きておこすれども、かひなしと思へど、霜月しはすの降り凍り、水無月の照りはたたくにも、障らず来たり。この人々、ある時は竹取を呼び出て「娘を吾にたべ」と、ふし拝み、手をすりのたまへど「おのがなさぬ子なれば、心にも従はずなんある。」と言ひて、月日すぐす。かかれば、この人々、家に帰りて物を思ひ、祈をし、願を立つ。思ひやむべくもあらず。「さりとも、つひに男あはせざらむやは」と思ひて、頼みをかけたり。あながちに心ざし見えありく。

 これを見つけて、翁、かぐや姫に言ふやう「我子の仏、変化の人と申しながら、ここら大きさまで養ひたてまつる志おろかならず。翁の申さん事は聞き給ひてむや」と言へば、かぐや姫「なにごとをか、のたまはん事は、うけたまはらざらむ。変化の物にて侍りけん身とも知らず、親とこそ思ひたてまつれ」と言ふ。翁「うれしくも、のたまふものかな」と言ふ。

 「翁、年七十に余りぬ。今日とも明日とも知らず。この世の人は、をとこは女にあふことをす、女は男にあふ事をす。その後なむ門ひろくもなり侍る。いかでか、さることなくてはおはせん。」かぐや姫のいはく「なんでふ、さることか、し侍らん」と言へば、「変化の人といふとも、女の身持ち給へり。翁のあらむ限りは、かくてもいますかりなむかし。この人々の年月をへて、かうのみいましつつのたまふことを、思ひ定めて、一人一人にあひたてまつり給ひね」と言へば、かぐや姫のいはく、「よくもあらぬかたちを、深き心も知らで、あだ心つきなば、後くやしき事もあるべきを、と思ふばかりなり。世のかしこき人なりとも、深き心ざしを知らでは、あひがたしと思」と言ふ。

 翁いはく、「思ひのごとくも、のたまふものかな。そもそもいかやうなる心ざしあらん人にか、あはむとおぼす。かばかり心ざしおろかならぬ人々にこそあるめれ」。かぐや姫のいはく、「なにばかりの深きをか見んと言はむ。いささかの事なり。人の心ざし等しかるなり。いかでか、中に劣り優りは知らむ。五人の中に、ゆかしきものを見せ給へらんに、御心ざしまさりたりとて仕うまつらんと、そのおはすらん人々に申し給へ」と言ふ。「よき事なり」と承けつ。

三 五つの難題

仏の石の鉢

 日暮るるほど、例の集まりぬ。あるいは笛を吹き、あるいは歌をうたひ、あるいは唱歌をし、あるいはうそぶき、扇を鳴らしなどするに、翁出でていはく、「かたじけなく、きたなげなる所に年月をへて物し給ふこと、極まりたるかしこまり」と申す。「『翁の命、今日明日とも知らぬを、かくのたまふ君逹にも、よく思ひ定めて仕うまつれ』と申すもことわりなり。『いづれも劣り優りおはしまさねば、御心ざしの程は見ゆべし。仕うまつらん事は、それになむ定むべき』と言へば。これよき事なり。人の御恨みもあるまじ」と言ふ。五人の人々も「よき事なり」と言へば、翁入りて言ふ。かぐや姫「石つくりの皇子には、仏の御石の鉢といふ物あり。それをとりてたまへ」と言ふ。「くらもちの皇子には、東の海に蓬莱といふ山あるなり。それに銀を根とし、金を茎とし、白き玉を実として立てる木あり。それ一枝をりて賜はらん」と言ふ。「今ひとりには、唐土にある火鼠のかはぎぬを賜へ。大伴の大納言には、龍の首に五色に光る玉あり、それを取りて給へ。いそのかみの中納言には、燕の持たる子安の貝、ひとつとりて賜へ」と言ふ。翁、「かたき事どもにこそあなれ。この国にある物にもあらず。かく難き事をば、いかに申さむ」と言ふ。かぐや姫、「何か、難からん」と言へば、翁、「とまれかくまれ申さむ」とて、出て、「かくなむ。聞ゆるやうに見せ給へ」と言へば、皇子逹・上逹部聞きて、「おいらかに、あたりよりだにな歩きそ、とやはのたまはぬ」と言ひて、倦んじて皆帰りぬ。

なほ、この女見では、世にあるまじき心地のしければ、「天竺にある物ももて来ぬものかは」と思ひめぐらして、石つくりの皇子は、心のしたくある人にて、「天竺に二となき鉢を、百千万里の程行きたりとも、いかでかとるべき」と思ひて、かぐや姫のもとには、「今日なん天竺へ石の鉢とりにまかる」と聞かせて三年ばかり、大和国十市郡にある山寺に、賓頭盧(びんづる)の前なる鉢の、ひた黒に墨つきたるをとりて、錦の袋に入れて、造り花の枝につけて、かぐや姫の家にもて来て見せければ、かぐや姫、あやしがりて見るに、鉢の中に文あり。ひろげて見れば、

    海山の道に心をつくしはて     ないしのはちの涙ながれき

かぐや姫、「光やある」と見るに、蛍ばかりの光だになし。

    置く露の光をだにも宿さまし    をぐら山にて何もとめけん

とて返し出だす。鉢を門に捨てて、この歌の返しをす。

    しら山にあへば光のうするかと   はちを捨ててもたのまるるかな

と詠みて入れたり。かぐや姫、返しもせずなりぬ。耳にも聞き入ざりければ、言ひわづらひて帰りぬ。かの鉢を捨ててまた言ひ寄りけるよりぞ、面なき事をば、「はぢを捨つ」とは言ひける。

蓬莱の珠の枝

くらもちの皇子は、心たばかりある人にて、おほやけには、「筑紫の国に、湯浴みにまからむ」とて、暇申して、かぐや姫の家には、「玉の枝とりになむまかる」と言はせて、下り給ふに、仕うまつるべき人々、みな難波まで御送りをしける。皇子、「いと忍びて」とのたまはせて、人もあまた率ておはしまさず。近う仕うまつるかぎりして出で給ひぬ。御送りの人々見たてまつり送りて帰りぬ。「おはしぬ」と人には見え給へて、三日ばかりありて漕ぎ帰り給ひぬ。かねて事みな仰たりければ、その時ひとつの寶なりける鍛冶匠六人を召しとりて、たはやすく人寄り来まじき家を作りて、かまどを三重にしこめて、匠らを入れ給ひつつ、皇子も同じ所に籠り給ひて、しらせ給ひたるかぎり十六そを、かみにくどをあけて、玉の枝を作り給ふ。かぐや姫のたまふやうに違はず作り出でつ。いとかしこくたばかりて、難波にみそかにもて出でぬ。「舟に乘りて帰り来にけり」と殿に告げやりて、いといたく苦しがりたるさましてゐたまへり。迎へに人多くまゐりたり。玉の枝をば長櫃に入て、物おほひて持ちてまゐる。いつか聞きけん、「くらもちの皇子は優曇華の花持ちて上り給へり」と、ののしりけり。これをかぐや姫聞きて、我は皇子に負けぬべしと、胸うちつぶれて思ひけり。

かかる程に、門をたたきて、「くらもちの皇子おはしたり」と告ぐ。「旅の御姿ながらおはしたり」と言へば、会ひたてまつる。御子のたまはく、「命をすてて、かの玉の枝持ちてきたる、とて、かぐや姫に見せたてまつり給へ」と言へば、翁持ちて入りたり。この玉の枝に文ぞつきたりける。

  いたづらに身はなしつとも玉の枝を手をらでただに歸らざらまし

これをあはれとも見でをるに、竹取の翁はしり入りていはく、「この御子に申し給ひし蓬來の玉の枝を、ひとつの所誤たずもておはしませり。なにをもちてとかく申べき。旅の御姿ながら、わが御家へも寄り給はずしておはしたり。はやこの皇子にあひ仕うまつり給へ」と言ふに、物も言はで、頬杖をつきて、いみじうなげかしげに思ひたり。この皇子「いまさへ何かと言ふべからず」と言ふままに、縁にはひ上り給ぬ。翁、理に思ふに、「この国に見えぬ玉の枝なり。この度はいかでか辞び申さむ。様もよき人におはす」など言ひゐたり。

かぐや姫の言ふやう、「親のの給ことを、ひたぶるに辞び申さん事のいとほしさに」。取りがたき物を、かくあさましくてもてきたる事をねたく思ひ、翁は閨のうち、しつらひなどす。翁、皇子に申やう、「いかなる所にか、この木はさぶらひけん、あやしく、うるはしく、めでたき物にも」と申す。皇子答へてのたまはく、「さをととしの、二月の十日ごろに、難波より船に乘りて、海の中に出でて、行かん方も知らず覚えしかど、思ふこと成らでは世の中に生きてなにかせん、と思ひしかば、ただ空しき風にまかせてありく。命死なばいかがはせん、生きてあらむかぎりは、かくありて、蓬莱といふらむ山に逢ふやと、浪に漕ぎただよひありきて、わが国のうちをはなれて、ありきまかりしに、ある時は、浪に荒れつつ海の底にも入りぬべく、ある時は、風につけて知らぬ国に吹き寄せられて、鬼のやうなるもの出で来て殺さんとしき。ある時には、来し方行末も知らず、海にまぎれんとしき。ある時にはかてつきて草の根をくひものとしき。ある時は、言はん方なくむくつけげなるもの来て、食ひかからんとしき。ある時には、海の貝をとりて命をつぐ。旅の空に助け給ふべき人もなき所に、いろいろの病をして、行く方そらもおぼえず。舟の行くにまかせて海にただよひて、五百日といふ辰の時ばかりに、海の中に、はつかに山見ゆ。舟のうちをなむせめて見る。海の上にただよへる山、いと大きにてあり。その山のさま、高くうるはし。これやわが来むる山ならんと思ひて、さすがに恐ろしくおぼえて、山のめぐりをさしめぐらして、二三日ばかり見ありくに、天人の装ひしたる女、山の中より出来て、銀のかなまりを持ちて、水を汲みありく。これを見て、舟より下りて、「山の名を何とか申す」と問ふ。女、答へていはく、「これは蓬來の山なり」と答ふ。これを聞くに、うれしき事かぎりなし。この女、「かくのたまふは誰ぞ」と問ふ、「わが名はうかんるり」と言ひて、ふと山の中に入りぬ。

その山見るに、さらに登るべきやうなし。その山のそばひらを巡れば、世の中になき花の木どもたてり。黄金・銀・瑠璃色の水、山より流れ出でたり。それには色々の玉の橋渡り。そのあたりに、照り輝く木どもたてり。その中に、このとりてまうできたりしは、いと悪かりしかども、「のたまひしに違はましかば」とて、この花ををりてまうできたるなり。山はかぎりなくおもしろし。世にたとふべきにあらざりしかど、此枝ををりてしかば、さらに心もとなくて、舟に乗りて、追風吹きて、四百余日になむまうで来にし。大願力にや、難波より、昨日なん都にまうで來つる。さらに潮に濡れたる衣をだに脱ぎかへなでなん、こちまうで来つる」とのたまへば、翁聞きて、うちなげきて詠める、

   くれ竹のよゝの竹とり野山にもさやはわびしきふしをのみ見し

これを御子聞きて、「こゝらの日ごろ思ひわび侍る心は、今日なん落ちゐぬる」とのたまひて、返し、

   わが袂今日乾ければわびしさのちぐさの数も忘られぬべし

とのたまふ。かゝる程に、をのこども六人つらねて庭に出できたり。一人の男、文挾みに文をはさみて申す。「内匠寮の工匠、漢部内麻呂申さく、玉の木を作り仕うまつりし事、五穀断ちて、千余日に力を尽くしたること少なからず。しかるに禄いまだ給はらず。これをたまひて、けこにたまはせん」と言ひて、捧げたり。竹取の翁、この工匠が申すことは「なに事ぞ」と傾きをり。皇子は我にもあらぬ気色にて、肝消えゐ給へり。

これをかぐや姫聞きて、「この奉る文をとれ」と言ひて、見れば、文に申しけるやう、「皇子の君、千日いやしき工匠らともろともに同じ所に隱れゐたまひて、かしこき玉の枝作らせ給ひて、官も給はんとおほせ給き。これをこのごろ案ずるに、『御つかひとおはしますべきかぐや姫の要じ給べきなりけり』と、うけたまはりて、この宮より給はらん」と申して、「給はるべきなり」と言ふを聞きて、かぐや姫の、暮るゝまゝに思ひわびつる心地、わらひさかえて、翁を呼びとりて言ふやう、「まことに蓬莱の木かとこそ思ひつれ。かくあさましき空ごとにてありければ、はやとく返し給へ」と言へば、翁答ふ、「さだかに作らせたる物と聞きつれば、返さむ事いとやすし」と、うなづきてをり。かぐや姫の心ゆきはてゝ、ありつる歌の返し、

  まことかと聞きて見つれば言のはを飾れる玉の枝にぞありける

と言ひて、玉の枝も返しつ。竹取の翁、さばかり語らひつるが、さすがに覚えて眠りをり。皇子は、立つもはした、居るもはしたにて、ゐ給へり。日の暮れぬれば、すべり出で給ぬ。

 かのうれへせし工匠をば、かぐや姫呼びすゑて、「うれしき人どもなり」と言ひて、禄いと多くとらせ給ふ。工匠らいみじく喜びて、「思ひゐつるやうにもあるかな」と言ひて、帰る道にて、くらもちの皇子、血の流るゝまで調ぜさせ給ふ。禄得しかひもなく、皆とり捨てさせ給ひてければ、逃げうせにけり。かくてこの皇子は、「一生の恥、これに過ぐるはあらじ。女を得ずなりぬるのみにあらず、天下の人の見、思はん事の恥づかしき事」とのたまひて、ただ一ところ、深き山へ入り給ひぬ。宮司、候ふ人々、みな手を分かちて求めたてまつれども、御死にもやしたまひけん、え見つけたてまつらずなりぬ。皇子の御供に隠し給はんとて、年頃見え給はざりけるなりけり。これをなむ「たまさかなる」とは言ひはじめける。

火鼠の皮衣

 右大臣あべのみむらじは、たから豊かに、家ひろき人にぞおはしける。その年きたりける唐船の、わうけいといふ人のもとに、文を書きて、「火鼠の皮といふなる物買ひておこせよ」とて、仕うまつる人の中に心たしかなるを選びて、小野のふさもりといふ人をつけて遣はす。もて到りて、唐にをるわうけいに、金をとらす。わうけい、文をひろげて見て、返事書く。「火鼠の皮衣、此國になき物也。おとには聞けども、いまだ見ぬなり。世にあるものならば、この國にも、もてまうで來なまし。いと難きあきなひなり。しかれども、もし天竺にたまさかにもて渡りなば、長者のあたりにとぶらひ求めむに。なき物ならば、使にそへて、金をば返したてまつらん」と言へり。かの唐船來けり。小野のふさもりまうで來て、まう上るといふ事を聞きて、歩み疾うする馬をもちて走らせむかへさせ給時に、馬に乘りて、筑紫よりたゞ七日に上りまうできたる。文を見るに、いはく、「火鼠の皮衣、からうじて、人を出して求めたてまつる。今の世にも、昔の世にも、此皮は、たはやすくなき物也けり。昔、かしこき天竺の聖、この國にもて渡りてはべりける、西の山寺にありと聞きおよびて、おほやけに申て、からうじて買ひとりてたてまつる。値ひの金少なしと、こくし使に申しかば、わうけいが物加へて買ひたり。いま金五十兩給るべし。舟の歸らむにつけてたび送れ。もし金給はぬ物ならば、かは衣の質返したべ」と言へることを見て、「なに仰す。いま金すこしにこそあなれ。かならずおくるべき物にこそあなれ。嬉しくしておこせたるかな」とて、唐の方に向ひてふし拜み給。この皮衣いれたる箱を見れば、くさぐさのうるはしき瑠璃を色へてつくれり。皮衣を見れば、金青の色なり。毛の末には、金の光し、さゝきたり。寶と見え、うるはしき事ならぶべき物なし。火に燒けぬ事よりも、けうらなること、ならびなし。「うべ、かぐや姫このもしがり給にこそありけれ」とのたまうて、「あなかしこ」とて、箱にいれ給て、ものゝ枝につけて、御身の化粧いといたくして、「やがて泊りなんものぞ」とおぼして、歌よみ加へて持ちていましたり。その歌は、限なきおもひに燒けぬ皮衣袂かはきてけふこそはきめと言へり。家の門にもていたりて、立てり。竹取出きて、とり入れて、かぐや姫に見す。かぐや姫の、皮衣を見ていはく、「うるはしき皮なめり、わきてまことの皮ならむとも知らず」。竹取答へていはく、「とまれかくまれ、まづ請じ入たてまつらむ。世中に見えぬ皮衣のさまなれば、これをと思ひ給ね。人ないたくわびさせたてまつらせ給そ」と言ひて、呼びすゑたてまつれり。かく呼びすゑて、この度はかならずあはむと、女の心にも思ひをり。この翁は、かぐや姫のやもめなるを歎かしければ、よき人にあはせんと思ひはかれど、切に「いな」といふ事なれば、え強ひねば、ことわり也。かぐや姫、翁にいはく、「この皮衣は、火に燒かんに、燒けずはこそ、まことならめと思ひて、人の言ふことにも負けめ。「世になき物なれば、それをまことと疑ひなく思はん」とのたまふ。猶これを燒きて心みん」と言ふ。翁、「それ、さも言はれたり」と言ひて、大臣に、「かくなん申」と言ふ。大臣答へていはく、「この皮は、唐にもなかりけるを、からうじて求め尋ねえたる也。なにの疑ひあらむ。さは申とも、はや燒きて見給へ」と言へば、火の中にうちくべて燒かせ給に、めらめらと燒けぬ。「さればこそ。異物の皮なりけり」と言ふ。大臣、これを見給ひて、顔は草の葉の色にて居給へり。かぐや姫は、「あなうれし」と、喜びてゐたり。かの詠み給ける歌の返し、箱に入て返す。

  なごりなく燃ゆとしりせば皮衣思ひの外におきて見ましを

とぞありける。されば、歸りいましにけり。世の人々、「あべの大臣、火ねずみの皮衣もていまして、かぐや姫にすみ給ふとな。こゝにやいます」など問ふ。ある人のいはく、「皮は火にくべて燒きたりしかば、めらめらと燒けにしかば、かぐや姫あひ給はず」と言ひければ、これを聞きてぞ、とげなき物をば、「あへなし」と言ひける。

龍の首の珠

大伴のみゆきの大納言は、わが家にありとある人召し集めて、のたまはく、「龍の頸に、五色にひかる玉あなり。それ取りてたてまつりたらん人には、願はんことを叶へん」とのたまふ。をのこども、仰の事を承はりて申さく、「仰の事はいともたふとし。たゞし、この玉たはやすくえ取らじを。いはむや、龍の頸の玉はいかゞ取らむ」と申あへり。大納言の給、「てんの使といはんものは、命を捨てゝも、おのが君の仰ごとをば叶へんとこそ思ふべけれ。この國になき、天竺・唐の物にもあらず。此國の海山より、龍はおり上る物也。いかに思ひてか、なんぢら、難きものと申べき」。をのこども申やう、「さらばいかゞはせむ。難き事なりとも、仰ごとに從ひて求めにまからむ」と申に、大納言見わらひて、「なむぢらが君の使と、名を流しつ。君の仰ごとをば、いかゞは背くべき」との給て、龍の頸の玉取りにとて、出したて給。この人々の、道の糧食物に、殿内の絹・綿・錢など、あるかぎりとり出でゝ添へて遣はす。「この人々ども歸るまで、いもひをして吾はをらん。この玉取りえでは、家に歸り來な」とのたまはせけり。おのおの仰承はりて、まかり出ぬ。「『龍の頸の玉取りえずは、歸り來な』とのたまへば、いづちもいづちも、足の向きたらん方へいなむず。かゝるすき事をしたまふこと」と、そしりあへり。給はせたる物、おのおの分けつゝ取る。あるいはおのが家に籠りゐ、あるいはおのが行かまほしき所へ往ぬ。「親君と申とも、かくつきなきことを仰給ふこと」ゝ、事ゆかぬ物ゆゑ大納言をそしりあひたり。「かぐや姫すゑんには、例のやうには見にくし」との給て、うるはしき屋を造り給て、漆を塗り、まきゑして、かべし給て、屋の上に絲を染めて色々に葺かせて、内のしつらひには、言ふべくもあらぬ綾おり物に繪をかきて、間毎に張りたり。もとの妻どもは、かぐや姫をかならずあはん設して、ひとり明かし暮し給。遣はしし人は、夜晝待ち給に、年越ゆるまでおともせず。心もとながりて、いと忍びて、たゞ舍人二人召繼として、やつれ給て、難波の邊におはしまして、問ひ給事は、「大伴の大納言殿の人や、舟に乘りて、龍殺して、そが頸の玉取れるとや聞く」と問はするに、船人答へていはく、「あやしき事かな」と笑ひて、「さる業する舟もなし」と答ふるに、「をぢなき事する舟人にもあるかな。え知らでかく言ふ」と思して、「わが弓の力は、龍あらばふと射殺して、頸の玉は取りてん。おそく來る奴ばらを待たじ」との給て、舟に乘りて海ごとにありき賜に、いととほくて、筑紫の方の海に漕ぎ出給ひぬ。いかゞしけん、疾き風吹きて、世界暗がりて、舟を吹もてありく。いづれの方とも知らず、舟を海中にまかり入ぬべく吹きまはして、浪は舟にうちかけつゝ捲き入れ、神は、落ちかゝるやうにひらめく。かゝるに、大納言まとひて、「またかゝるわびしき目見ず。いかならんとするぞ」との給ふ。楫取答へて申、「こゝら舟に乘りてまかりありくに、またかく、わびしき目を見ず。御舟海の底に入らずは、神落ちかゝりぬべし。もし幸に神の救あらば、南の海に吹かれおはしぬべし。うたてある主のみもとに仕うまつりて、すゞろなる死をすべかめるかな」と、楫取泣く。大納言これを聞きて、の給はく、「船に乘りては、楫取の申ことをこそ、高き山と頼め、などかく頼もしげなく申ぞ」と、青反吐をつきての給。楫取答へて申、「神ならねば、なに業を仕うまつらむ。風吹き、浪激しけれども、かみさへ頂に落ちかゝるやうなるは、龍を殺さんと求め給へばあるなり。はやても龍の吹かする也。はや神に祈りたまへ」と言ふ。「よき事也」とて、「楫取の御神、きこしめせ。をどなく、心をさなく龍を殺さむと思ひけり。いまより後は、毛の末一筋をだに動かしたてまつらじ」と、よ事をはなちて起ち居、泣々よばひ給事、千度ばかり申給ふけにやあらん、やうやう神、鳴り止みぬ。すこし光りて、風はなほ疾く吹、楫取のいはく、「これは龍のしわざにこそありけれ。この吹風は、よき方の風なり。あしき方の風にはあらず。よき方に赴きて吹くなり」といへども、大納言は、これを聞き入れ給はず。三四日吹て、吹き返しよせたり。濱を見れば、播磨の明石の濱也けり。大納言、南海の濱に吹きよせられたるにやあらんと思ひて、いきづき伏し給へり。船にあるをのこども國に告げたれども、國の司まうでとぶらふにも、え起き上り給はで、舟底に伏し給へり。松原に御莚しきて、下したてまつる。その時にぞ、南海にあらざりけりと思ひて、からうじて起き上り給へるを見れば、風いと重き人にて、腹いとふくれ、こなたかなたの目には、杏を二つつけたるやう也。これを見たてまつりてぞ、國の司もほほゑみたる。國に仰せ給て、手輿つくらせ給て、によふによふ擔はれ給て家に入給ひぬるを、いかでか聞きけん、遣はしゝ男どもまゐりて申やう、「龍の頸の玉をえ取らざりしかばなん、殿へもえまゐらざりし。玉の取りがたかりし事を知り給へればなん、勘當あらじとてまゐりつる」と申。大納言起きゐて宣はく、「汝らよくもて來ずなりぬ。龍は鳴る神の類にこそありけれ。それが玉を取らむとて、そこらの人々の害せられなむとしけり。まして龍を捕へたらましかば、又、こともなく、我は害せられなまし。よく捕へずなりにけり。かぐや姫てふ大盗人の奴が、人を殺さんとするなりけり。家のあたりだに、いまはとほらじ。男ども、なありきそ」とて、家に少し殘りたりける物どもは、龍の玉を取らぬ者どもにたびつ。これを聞きて、離れ給ひしもとの上は、腹をきりて笑ひ給。絲を葺かせ造りし屋は、鳶・烏の巣に、みなくひもて往にけり。世界の人の言ひけるは、「大伴の大納言は、龍の頸の玉や取りておはしたる」「いな、さもあらず。御眼二に、杏のやうなる玉をぞ添へていましたる」と言ひければ、「あなたへがた」と言ひけるよりぞ、世にあはぬ事をば、「あなたへがと」とは言ひはじめける。

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