戦後ニッポンを侮るな 憲法60年の年明けに
キリマンジャロのような高山から、しだいに雪が消えつつある。
氷河はあちこちで「元氷河」になり、北極や南極の氷も崩れている。このまま進むと世界の陸地がどんどん海になり、陸上の水は減っていく。
ニューオーリンズを襲った恐怖のハリケーンなど、最近の異常気象も、海水の温度上昇と無縁ではない。大気中に増える二酸化炭素(CO2)を何とか抑えなければ、地球の温暖化はやまず、やがて取り返しのつかないことになる。
米国の元副大統領アル・ゴア氏が伝道師のように世界を歩き、地球の危機に警鐘を鳴らしている。1月に日本公開される記録映画「不都合な真実」は、それを伝えて衝撃的だ。
氷河はあちこちで「元氷河」になり、北極や南極の氷も崩れている。このまま進むと世界の陸地がどんどん海になり、陸上の水は減っていく。
ニューオーリンズを襲った恐怖のハリケーンなど、最近の異常気象も、海水の温度上昇と無縁ではない。大気中に増える二酸化炭素(CO2)を何とか抑えなければ、地球の温暖化はやまず、やがて取り返しのつかないことになる。
米国の元副大統領アル・ゴア氏が伝道師のように世界を歩き、地球の危機に警鐘を鳴らしている。1月に日本公開される記録映画「不都合な真実」は、それを伝えて衝撃的だ。
●地球と人間の危機
人間の暮らしを豊かにする技術の進歩が地球を壊していく皮肉。だが、深刻なのはそれだけではない。人が人を憎み、殺し合い、社会を壊す。進歩のない人間の浅ましさが、いまも世界を脅かす。
今年の正月はイスラム教の「犠牲祭」に重なった。神に感謝してヒツジを犠牲にし、みなで食べる大祭だが、イラクの人々はお祭り気分にほど遠くないか。戦争開始から4年近くたったのに、自由で民主的な国の訪れは遠く、まるで自爆テロの国となってしまった。
市民の死者はすでに5万数千人。停電や断水は絶えず、石油は高騰。避難民は50万人に達し、崩壊国家に近づいている。米英兵の死者も3千人を超えたが、兵を引けないジレンマが続く。ブッシュ政権は中東の混乱に拍車をかけ、世界をより不安にさせてしまった。
ゴア氏とブッシュ氏――。6年前、大統領選の行方を決めたフロリダ州での開票は、世界の行方も左右した。
CO2削減のために決められた京都議定書にブッシュ政権は背を向けた。米国は圧倒的なCO2排出国なのに、何と鈍感なことか。一方で、国際世論の反対を押し切ってイラク攻撃へと突き進んだ。軍事力への過信である。
人間の暮らしを豊かにする技術の進歩が地球を壊していく皮肉。だが、深刻なのはそれだけではない。人が人を憎み、殺し合い、社会を壊す。進歩のない人間の浅ましさが、いまも世界を脅かす。
今年の正月はイスラム教の「犠牲祭」に重なった。神に感謝してヒツジを犠牲にし、みなで食べる大祭だが、イラクの人々はお祭り気分にほど遠くないか。戦争開始から4年近くたったのに、自由で民主的な国の訪れは遠く、まるで自爆テロの国となってしまった。
市民の死者はすでに5万数千人。停電や断水は絶えず、石油は高騰。避難民は50万人に達し、崩壊国家に近づいている。米英兵の死者も3千人を超えたが、兵を引けないジレンマが続く。ブッシュ政権は中東の混乱に拍車をかけ、世界をより不安にさせてしまった。
ゴア氏とブッシュ氏――。6年前、大統領選の行方を決めたフロリダ州での開票は、世界の行方も左右した。
CO2削減のために決められた京都議定書にブッシュ政権は背を向けた。米国は圧倒的なCO2排出国なのに、何と鈍感なことか。一方で、国際世論の反対を押し切ってイラク攻撃へと突き進んだ。軍事力への過信である。
●「新戦略」のヒント
この5月、日本国憲法は施行60周年を迎える。人間ならば今年は還暦。朝日新聞はそれを機にシリーズ「新戦略を求めて」を締めくくり、日本のとるべき針路を提言する。ゴア氏が訴える危機と、ブッシュ氏が招いた危機。そこにも大きなヒントがある。
悲願だった教育基本法の改正を終え、次は憲法だ。そう意気込む自民党の改憲案で最も目立つのは、9条を変えて「自衛軍」をもつことだ。安倍首相は任期中の実現を目指すといい、米国との集団的自衛権を認めようと意欲を見せる。
だが、よく考えてみよう。
自衛隊のイラク撤退にあたり、当時の小泉首相は「一発の弾も撃たず、一人の死傷者も出さなかった」と胸を張った。幸運があったにせよ、交戦状態に陥ることをひたすら避け、人道支援に徹したからだった。それは、憲法9条があったからにほかならない。
もし名実ともに軍隊をもち、その役割を拡大させていたら、イラクでも英国軍のように初めから戦争参加を迫られていただろう。そうなれば、一発の弾も撃たないではすまない。間違った戦争となれば、なお悔いを残したに違いない。
もちろん、国際社会が一致してあたる場合は知らん顔はできまい。テロ組織の基地を標的としたアフガニスタン攻撃はその例だった。
自衛隊はどこまで協力し、どこで踏みとどまるか。「憲法の制約」というより「日本の哲学」として道を描きたい。
この5月、日本国憲法は施行60周年を迎える。人間ならば今年は還暦。朝日新聞はそれを機にシリーズ「新戦略を求めて」を締めくくり、日本のとるべき針路を提言する。ゴア氏が訴える危機と、ブッシュ氏が招いた危機。そこにも大きなヒントがある。
悲願だった教育基本法の改正を終え、次は憲法だ。そう意気込む自民党の改憲案で最も目立つのは、9条を変えて「自衛軍」をもつことだ。安倍首相は任期中の実現を目指すといい、米国との集団的自衛権を認めようと意欲を見せる。
だが、よく考えてみよう。
自衛隊のイラク撤退にあたり、当時の小泉首相は「一発の弾も撃たず、一人の死傷者も出さなかった」と胸を張った。幸運があったにせよ、交戦状態に陥ることをひたすら避け、人道支援に徹したからだった。それは、憲法9条があったからにほかならない。
もし名実ともに軍隊をもち、その役割を拡大させていたら、イラクでも英国軍のように初めから戦争参加を迫られていただろう。そうなれば、一発の弾も撃たないではすまない。間違った戦争となれば、なお悔いを残したに違いない。
もちろん、国際社会が一致してあたる場合は知らん顔はできまい。テロ組織の基地を標的としたアフガニスタン攻撃はその例だった。
自衛隊はどこまで協力し、どこで踏みとどまるか。「憲法の制約」というより「日本の哲学」として道を描きたい。
●得意技を生かそう
昨年はじめ、うれしいニュースがあった。英国BBCなどによる世界33カ国調査で、日本が「世界によい影響を与えている国・地域」で2位になったのだ。
1位は欧州だが、国家としてはフランスや英国を抑えて堂々のトップ。小泉前首相は「日本の戦後60年の歩みを国際社会が正しく評価している」と喜んだ。その通りである。
「GNP」(国民総生産)ならぬ「GNC」とは、米国ジャーナリストのダグラス・マッグレイ氏がつくった言葉だ。Cはクールで「カッコいい」の意味だから、GNCは「国民総カッコよさ」か。日本は世界で群を抜くという。
アニメ、漫画、ゲーム、ポップス、ファッション、食文化……。どの分野でも日本が世界やアジアをリードしている、というのだ。そういえば、最近はパズルの「数独」が世界のSudokuだ。そうしたことがBBC調査の結果にもつながったのだろう。
映画「不都合な真実」では、排ガスのCO2削減が企業の評価を高めている例としてトヨタとホンダを挙げている。米国車とは対照的だ。省エネや環境対策といった日本の得意技は、これからも世界に最も役立てる分野である。
軍事に極めて抑制的なことを「普通でない」と嘆いたり、恥ずかしいと思ったりする必要はない。安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げるが、それは一周遅れの発想ではないか。
むしろ戦後日本の得意技を生かして、「地球貢献国家」とでも宣言してはどうか。エネルギーや食料、資源の効率化にもっと知恵や努力を傾ける。途上国への援助は増やす。国際機関に日本人をどんどん送り込み、海外で活動するNGOも応援する。そうしたことは、日本人が元気を取り戻すことにも通じよう。
「軍事より経済」で成功した戦後日本である。いま「やっぱり日本も軍事だ」となれば、世界にその風潮を助長してしまうだけだ。北朝鮮のような国に対して「日本を見ろ」と言えることこそ、いま一番大事なことである。
昨年はじめ、うれしいニュースがあった。英国BBCなどによる世界33カ国調査で、日本が「世界によい影響を与えている国・地域」で2位になったのだ。
1位は欧州だが、国家としてはフランスや英国を抑えて堂々のトップ。小泉前首相は「日本の戦後60年の歩みを国際社会が正しく評価している」と喜んだ。その通りである。
「GNP」(国民総生産)ならぬ「GNC」とは、米国ジャーナリストのダグラス・マッグレイ氏がつくった言葉だ。Cはクールで「カッコいい」の意味だから、GNCは「国民総カッコよさ」か。日本は世界で群を抜くという。
アニメ、漫画、ゲーム、ポップス、ファッション、食文化……。どの分野でも日本が世界やアジアをリードしている、というのだ。そういえば、最近はパズルの「数独」が世界のSudokuだ。そうしたことがBBC調査の結果にもつながったのだろう。
映画「不都合な真実」では、排ガスのCO2削減が企業の評価を高めている例としてトヨタとホンダを挙げている。米国車とは対照的だ。省エネや環境対策といった日本の得意技は、これからも世界に最も役立てる分野である。
軍事に極めて抑制的なことを「普通でない」と嘆いたり、恥ずかしいと思ったりする必要はない。安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を掲げるが、それは一周遅れの発想ではないか。
むしろ戦後日本の得意技を生かして、「地球貢献国家」とでも宣言してはどうか。エネルギーや食料、資源の効率化にもっと知恵や努力を傾ける。途上国への援助は増やす。国際機関に日本人をどんどん送り込み、海外で活動するNGOも応援する。そうしたことは、日本人が元気を取り戻すことにも通じよう。
「軍事より経済」で成功した戦後日本である。いま「やっぱり日本も軍事だ」となれば、世界にその風潮を助長してしまうだけだ。北朝鮮のような国に対して「日本を見ろ」と言えることこそ、いま一番大事なことである。
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